serum
ひのてんR18

窓際のソファセットに戻って、彼はまたギフトセットを片づけてくれた。本当にそうめんしか食べてなかったのかな。ああ、お惣菜の焼き鳥もあったの。なら十分だねと笑ったら憤慨された。夕ご飯は絶対にお米がいいんだって。百歩譲ってラーメン、それもサイドメニュー付き。
この子は時々、見ていてかわいそうなくらいお腹を空かせている時がある。特に、お小遣いが底をつく月末はお昼ご飯もパンしか買えなくて、放課後は十分に一回のペースで『腹減った』と呟いている。もちろん親御さんのせいではなく、どうしても欲しいゲームソフトを買ったとか、流行りのCDを買ったとか、思春期の抗えない物欲に負けた結果なのだけど。
どうしてお金も食べ物も必要な人間に回らないのかな、僕のところにあったって腐る一方なのに。循環型社会を目指して、ファミレスのお代を持ってあげたり、株主優待券をあげたり、ささやかながら貢献しているつもりだ。まぁ、だってね、自分を慕ってくれる子がひもじい思いをしているのは見ていられない。パクパクとハムを減らす横顔を眺めながらシロップサイダーを飲む。ふと目が合って、まっすぐな瞳が僕を捉える。

「なんも食べないで飲むのは体に悪いですよ」

「最近暑くてね。恒例の夏バテだよ」

実験生物の世話もあって、一応毎日登校はしているけど、外出と言えば本当にそれだけ。朝遅く起きて、とりあえずコーヒーかアロエを飲んで、登校して、帰宅して、パソコンして読書して、明け方に何となく眠る。そんな堕落したルーティーンに彼は絶句して、珍しくお説教じみた言葉を放った。

「何でもいいから、一日一食でもいいから、痩せない程度には食べてください。てか俺に食わせてる場合じゃねえだろ。酒と煙草で生きようとすんな」

「あ、バレてた?」

空気清浄機、付けておいたのに。笑いながら尋ねても、彼は話題を変えてくれなかった。自分のことは自分が一番よく知っていて、この状態ならまだまだ余裕な方なんだけど、この子の言い分もわかる。ここは煙に巻かず素直になっておこうと、お箸を取って真っ白なチーズを食べてみる。

「うーん、乳製品」

まったりとした風味が口に広がって、夏に不似合いな食感ごとシロップで押し流す。早々に諦め、スイカのジュレみたいな冷たいゼリーをすくって食べた。注がれている視線が『水分だろそれ』と言うように険しくなる。ゼラチンはタンパク質だよ。
僕をよそに、テーブルの料理はさくさくと気持ちよく片づいていく。明朝も食べてもらって、ついでに常温保存できるものをいくつかお持ち帰りしてもらおう。あ、それだと一晩どこに行ってきたか話さないといけなくなるかな。彼が両親をどう言いくるめてきたのかわからないけど、まあ正直には告げていないだろう。
ソファにもたれながらそんなことを思っていると、床で胡座をかいていた彼もソファに上ってきた。ぽすんと座面を沈ませたものの、なんだか距離が近い。太腿が触れそうだ。躊躇いがちに向けられた瞳に、鋭さは破片も残っていなかった。

「ーーどうかした?」

濡れた瞳が室内灯を映して光る。耳元に口を寄せて尋ねると、返事より先に両腕が巻き付いてきた。
僕の膝に乗り上げるような体勢で、上から唇を奪われる。眼鏡が当たってもお構いなしだ。

「ん、んっ」

触れるだけでは我慢できなくなったみたいで、押し付けてくる舌先をゆっくりと迎え入れてあげた。
彼は自覚してないと思うけど、口を大きく開けられる割には舌が小さい。決して下手じゃないのに、一生懸命伸ばしてもうまく絡めることができなくて、ちょっと苦しそうに吐息をこぼしている。後頭部をやんわり支えつつ、舌を押し返して陣営をそちらの口腔に移す。腰の辺りを撫でるとあからさまに体が揺れた。
スキンシップにしては随分と劣情が含まれているから、戯れで終わらせる気なんてないことは僕にもわかる。普段、がっついたところを見せようとしない彼にしては珍しいけど、こんな夜更けに飛び込んできた時点で遠慮するのもおかしいかな。
ぷは、って唐突に離れた唇で何度も呼吸を繰り返してから、彼は膝をついた姿勢で腰を浮かせた。眉をきゅっと寄せ、両手の親指をハーフパンツのウエストに引っ掛けて、下着ごとゆっくりと下ろしていく。大きめのシャツの裾から、日に当たらない太腿の白が覗いた。

「ベッド行く?」

ようやく外した眼鏡を折りたたんで訊くと、すぐさま頭を振って床に下衣を放り出す。冷房の効いたリビングで、首筋まで紅潮を広げて。露骨に恥ずかしがることはなくても、暗い部屋が本能的に落ち着くのは間違いないのに。
熱に溶け始めた瞳で僕を見下ろして、火照った唇が再度重なってくる。小さな舌を弄びながら、シャツで隠れた腰にそっと手を伸ばした。のんびり前戯なんてしていたら噛みつかれそう。ひとまず彼のペースに合わせて、尾骨を指先ですりすり撫でてみる。

「んぅ、ん……っ」

絡め合わせた舌がびくりと跳ねる。汗でほんのり湿った狭間に指を滑らせて、震える入口をとんとんと探ったら舌に歯を立てられた。のんびりしていたわけじゃないのに。はっとした彼は慌ててキスを解いて、小声で謝ってくれた。
一応、ここでそういうことがあってもいいように準備はしてあるんだよ。ポケットに忍ばせた容器の中身で、指先をたっぷりと濡らして。吸い付く蕾に塗り込めると、上体をべったり預けてしがみつかれる。やたらと甘い声が耳元で聞こえるのは、たぶん意図してはいないはず。

「柔らかいね」

そこはなんの抵抗もなく、中指を根元まで受け入れた。お風呂である程度は準備してくれたみたい。そんなことまでしなくてもいいのに。挿入さえ済めば満足、って言えるほどこの子に対して淡白になりたくないし、キツいところを徐々に広げていく過程も嫌いじゃない。

「ぅ、あ、んん……っ」

濡れた指が倍になって押し込まれると、とろけた両目いっぱいの涙が僕の髪に溢れ落ちた。カーディガンの背を引っ掻くようにすがりついて、彼はにじにじと遠慮がちに腰を進めてくる。シャツの裾を色濃く変えた膨らみが、僕の腹部にぎゅっと押し付けられる。

「っは、ん……っ」

ボトムの前立てに当たるよう位置を調節して、ぎこちなく腰が揺らされる。ぐりぐりと擦りつけられるほど、そこからは重い水音が聞こえてきた。
彼は焦れったそうに唇を噛んで、シャツをぐいと持ち上げる。濡れそぼった彼のものが露わになった。それからちらりと僕を一瞥すると、反応を窺いながらこわごわベルトを外していく。小刻みに震える指がボトムのジッパーをじりじりと下ろす様子に、思わず苦笑が零れた。ひとを急かしておいて、自分はコレなんだからずるいよね。

「するならちゃんとしてよ」

「! あ……っ」

緩めたウエストの中に彼の手を押し込むと、火傷でもしたみたいに耳まで赤らめて声を上げた。その手が躊躇いがちに動き出したのを確認して、僕も自分の仕事に戻る。

「ひっ、ぁあ……っ」

彼の内部を少しだけ進んだ先にある、お腹側で膨らんだ凝り。強く押さなくても、指の腹で優しく撫でればきゅっと入口が締まる。揃えた指をゆっくりと、何度も抜き差ししながらそこを通過していく。

「っん、ん、ぁ…っ……」

彼が腰を揺すって、ボトムからようやく引きずり出せた僕に自分の中心を触れ合わせる。快楽に弱くて素直なところは純粋に可愛いと思う。いつもはもう少し恥じらうから、やっぱり余裕がないんだろうけど。指を含んだ内部も執拗に収縮を繰り返している。

「ぁ、……っ、も……、我慢、できな……っ」

切羽詰まった声色の後、腰の動きが大胆になる。ふうふうと興奮しきった息遣いで自身を擦り付ければ、濁り始めた蜜が僕と衣服に飛散する。
もう少し急いだ方がいいかな。内部を探る指を増やして拡張作業に勤しむ。とはいえこの感じなら、きっと多少の痛みは相殺できる。
指を抜いて、さすがに暑くなってきたカーディガンを脱ぎ落とした。いったん彼に腰を浮かせてもらい、柔らかくほぐれたそこに宛てがうと、自分からゆるゆると体を沈めてくれた。

「っあ、あ、ぁーーー!」

上擦った嬌声が鼓膜を乱暴に揺るがす。この瞬間の声は何度聞いても、めりめりと内側を支配する感覚と相まって否が応でも興奮させられる。ただ、彼はなかなか全てを呑み込んでくれない。
よくあることで、どれだけ丁寧にほぐしてもその時の緊張や体位によって無闇に力が入っちゃうんだね。『これから注射しますよ』とでも言われたら、子供だってそれまでぶらぶらさせていた腕にぐっと力がこもる。そんな感じ。
もっと気楽に臨めば力まず済むんだろうけど、逆に言うとそれだけこの子が挿入に対して身構えているということだ。
初回ならともかく、こう何度もとなると『こわい』や『痛い』の負の緊張とは考えにくい。だからきっと、この緊張は期待の裏返しなんだと思ってる。

「や、っあ……!」

汗ばんだ首筋に優しく歯を立てる。今日は特にきつくて、腰を落とそうにも半ばから先に進まない。柔らかな臀部を撫でながら、彼の欲が芽吹く言葉を滔々と流し込んだ。


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