Anniversary
リーマンパロディ その後

「痛くない?」

「っは、あぁ………!」

指が届きうる奥まで貫かれ、すがりついた腕に力がこもる。ろくに触れられない中心は、指がどこかに押し当たる度にだらしなく蜜をこぼしていた。それをすくい取った指が、内部へ塗り込むように粘膜を掻き混ぜる。
先程睦み合った際に擦れた痛みなど、快感と比較すれば僅かなものだ。両膝を立てた彼がローブをはだけ、ぐっと腰を押しつけてくる。

「あ、や………っ!」

濡れ綻んだ蕾をぐりぐりと抉る熱量。ひどく欲されている事実に脳みそが酩酊した。挿入するには潤いが足りないとわかっているのに、それでも本能で先を呑み込もうと水音を立てる。急いた動きを宥めるように、相応の滑りを纏った指先がぬるぬると内壁を巡った。
あ、と火野が思い当たったように声を上げ、頭を乗せている枕の下に手を差し込む。濡れた顔を拭って僅かに持ち上げた天子は、二本の指に挟まれた避妊具を目にするなり反射的に手を伸ばした。

「え?」

四角い包装がぐしゃりと手の中でつぶされる音に、火野は思わず恋人を見上げた。そそくさと目を逸らしつつ、天子は床にそれを投げ捨てる。耳が燃えるように熱かった。

「ない方が、気持ちいい…んじゃねえの。知らねえけど…っ」

彼の肩に勢いよく顔を埋めれば、何故か小さくため息をつかれて体が硬直する。

「んっ、あ、ぁあ……っ!」

前触れもなく生身の彼を押し込まれ、泥濘んでいた入口は戸惑いながらもそれを受け入れた。ぐずぐずの内部を突き込まれて勝手に声が上擦る。

「っあ、ま、だ………ぁっ!」

ゆっくりと腰を揺すり上げられると、嵌まったものが浅い弱点を幾度も摩擦する。慣れ始めた質量に対し、律動に合わせて粘膜が小刻みにひくついた。己の嬌声の合間に、乱れた吐息がすぐ横で耳を掠めていく。

「は、ぁ、あ………っ、そんな、おく、や……っ!」

隘路を埋めた楔がみちみちと深みへ埋まり込み、奥を開かれる痛みと快楽で意識が薄まる。しかし下から突き上げられ、衝撃にいやらしく背が撓った。

「煽るのが悪いんだよ」

「っうぁ、あ……!」

濡れた舌で耳を犯され、責めるような低音が腹の底を揺らす。確実に奥へ向かう彼を止めることもできず、内側の襞を抉じ開けられて瞠目した。往復する先端がくぷくぷと襞を擦り上げる度に嗚咽が漏れ、堪らず華奢な体にすがりついた。汗で貼りついた前髪を優しく掻き上げられる。

「大丈夫。ここは気持ちよくなるところだから」

「ん、ぁっ、あ――――!」

腰を軽く揺すられるだけで腹の奥が切なく痺れた。大波を乗り越えるような振動が下肢から這い上がり、浅く深く貫くものにビクビクと体が反応する。

「抜かれたくないの? 吸いついてくるよ」

「そっ……なわけな……っあ、ぁあ!」

意地の悪い囁きと共に内壁を摩擦され、彼のものをぎちぎちと締めつける。その状態でゆっくりと腰を引かれれば、もどかしさに思わずかぶりを振って彼を引き留めた。

「可愛いよ。狭くてきついけど、動こうとするとここが絡みついてくる。少しは僕に慣れてくれたのかな」

「んぁっ、あ、あっ……!」

ぐいと尻を割り開かれ、熱いものが柔らかな肉をじっくりと掻き分けて奥を突いてくる。熟れきった内部は狂ったようにうねり、確かな質量で擦られることを望んでいた。

「っあ、やだぁ……っ、待っ、ぁ―――っ!」

腰を叩きつけられるペースが明らかに速まる。とろけた表情を見られまいと彼の肩に伏せ、漏れ出る声を押し殺そうとする。しかし腰をしっかりと固定されたままずんずんと弱いところを押しつぶされ、半泣きで彼の上腕辺りに爪を立てる。表側に位置した性器は二つの体に挟まれ、震えながら蜜を吐き出していた。
まさか触れられないまま絶頂を迎えてしまうのではと怖くなったが、楔は入口の縁を先端で引っ掻きながらちゅっと音を立てて外へ出ていく。

「は……っあ、なん、でっ……」

貪っていた快楽を唐突に取り上げられ、上り詰めた体は行き場を失い、下腹部をじくじくと疼かせる。狭間に触れる彼の昂りに、はしたなく腰を擦り付けてしまうのが恥ずかしい。
いったん天子を緩く押し退けてひとり体を起こした火野は、手首を掴んで引っ張りながら自らの膝を叩いて示す。

「ここにおいで」

「ぇ……、」

「ほら。こっち向いて座って」

彼の腰を跨いだ姿勢で、ひくつく場所にぬるぬると熱を馴染まされる。深く繋がる体位を強請られ、上気した肌が期待に粟立つのがわかった。

「っん、ん、………っ!」

彼の頭部を抱え込むようにしがみつき、恐る恐る腰を沈める。張った先端を収めたそこは、ずぶずぶとスムーズに欲望を呑み込んでいく。疼きを満たすべく躍起になって腰を揺する姿など、見られたくなかったのに。
全てをみっちりと咥え込めば、筒状の粘膜が過剰にびくつく。はぁ、と艶めいた吐息を漏らした彼は、両手で天子の腰を掴んでゆっくりと内部を探り始めた。

「っあ、ぁあ………!」

決して激しくは動けないが、壁に押し当たる毎にきゅんと粘膜が狭まる。穏やかな水音を鳴らしつつも、シーツについた膝は覚束なく震えた。

「も……あっ、さわ、って……っ」

律動に従って頼りなく揺れていた中心は、彼のローブに擦れながら弾けることを待ち望んでいた。浅い凝りから深い襞まで、ずんと打ち込まれる度に渇望の雫を滴らせる。濡れそぼったそこをやんわりと撫でた火野が艶然と微笑んだ。

「また僕を置いていくつもり?」

「あぁあっ」

仕置きと言わんばかりに、彼の指が根元をきつく戒める。下腹をぐるぐると蠢く熱の逃げ場はどこにもない。深部を優しく捏ねられる動きに、がりがりと彼のローブの背を掻いて泣きじゃくった。許しを乞えば自身に絡みついた手が離れ、安堵する間もなく淫らに囁かれる。

「気を遣るだけならいいけど、覚悟してね。寝たら叩き起こすよ」

「ぁ、はぁ……っ、や………!」

天子の腰を掴んで優しく上下しながら、はだけたローブの隙間に彼が唇を寄せる。下肢の刺激でつんと尖っていた乳首を押しつぶすように舐められた。甘噛みしながら吸いつかれると内部が連動して締まる。
潤沢な襞に彼を包み、ぬくぬくと扱き上げて興奮を得ているなんて。幾度も馴染まされ、掻き回された粘膜が物欲しげにざわめきだす。

「奥の方、まだ痛い?」

眦に滲んだ涙がぽろぽろと零れれば、心なしか動きが緩やかなものに変わる。慌てて首を横に振り、袖で乱暴に目許を拭って天子が呟いた。

「っ、わ、かんね……っ」

「わからないならもっと強くする?」

意地の悪い尋ねにまた首を振れば、下からそっと唇を宛てがわれる。

「ん、んっ……」

口腔を探る舌に自らのものを絡め、びくつく腰をためらいがちに揺すった。濡れた場所がそれぞれ擦れる刺激に腹の奥が熱くなる。
しがみついて尚も口づけを乞うたのに、宥めるように髪を撫でた手はあっさりと繋がりを引き剥がした。仰向けに横たえられ、腰の下に枕を挟まれると尻が浮き上がる。脚の間に割り込んだ彼が、天子の腿を抱えて体を進めてくる。

「んぁっ! やっ、ぁあ………っ」

じっくりと深くまで貫かれた後、優しさをかなぐり捨てた勢いでずんずんと腰を打ち込まれて甘い吐息を振り撒いた。少々の怯えを含んだ声も、剥き出しの本能に暴かれて欲の色に染まる。上書きした首筋の痕に歯を立て、火野は苦笑を浮かべた。

「こんな無理させるつもりなかったのに」

「あ、あ……っ、ふ、かぃ……っ!」

襞の終点をぬぷぬぷと行き来していた先端が奥に押し込まれた。そこからずるりと抜き出されてはより深く捩じ込まれ、粘膜の形に沿って嵌まったものが体の奥を揺さぶり続ける。
逃がさないとばかりに覆い被さり、上から打ち下ろすような乱暴な腰遣いには天子だって覚えがある。これは紛れもなく、男が精を吐き出すための動きだ。硬く張り詰めたもので強かに穿たれ、蠕動が激しくなる。

「――そんなに、欲しい?」

腕を回してすがりつくついでに、浮かせた脚を彼の腰へ遠慮がちに絡める。汚れた下腹部を撫でながら発された声は情欲に掠れ、吐息もべっとりと濡れていて天子は身震いする。

「っ、そういう、わけじゃ……んあぁっ」

体重をかけてのしかかられると骨盤が軋む。男でしかない自分に男でしかない彼は欲情し、ありったけをぶちまけようとしていた。

「ぃや、やだ……っ、 待ってって、言っ………ぁあ!」

しきりに吸いつく粘膜をたっぷりと嬲りながら腰を引き、喪失感に媚びる肉を抉るように激しく突き込んでくる。

「まっ……て、ひっ、ぃあ……っ」

少しでも動きを制限しようと、体の内外で密着を強める自分を意に介さず、彼は遠慮なく下腹部を打ち付けてきた。今だけは愛や恋などという可愛らしい感情故ではなく、完全に性の対象として扱われている事実にぞくぞくと背筋が痺れる。
こんなふうに求められたら、抱き返してやるなんて思えるわけがない。



next

×