ことほぎの儀
ひのてんR18

「さ、わっていいって、言ってないですけど」

拒む台詞とは裏腹に、胸がきゅっと甘く締めつけられる。薬のせいか、日を置いたせいかはいざ知らず、体のほうはあまり余裕がない。
レンズ越しの相貌に見つめられるだけで体の奥がじんじんと疼くのに、触れられたらきっと我慢できなくなる。下帯越しの冬晴れの空気は確かに冷たいが、包まれたものは今にも発熱しそうだ。

「じゃあ触らせて」

「や……っ」

しゃあしゃあと欲求を口にするなり、明確な意思をもって、紐状に撚り合った布がくいくいと引かれる。悪戯に中心を摩擦され、くじけそうな両脚を支えるべく、社の板敷きの通路に肘から先を乗せて上半身を這わせた。が、そうするとどうしても腰を突き出すような体勢になり、天子の手を離れた股引が足首まで下がらぬよう、火野は腰紐を腿の辺りで手早く結んだ。

「ちょ、何して――嫌だ……っ、んなとこ見んな…っ!」

「あんまりきついと、ここが擦れちゃうから緩くしてるの?」

前後に渡された布を横にずらし、冷たい指先で後孔をなぞられて目を瞠った。躊躇のなさすぎる言動に翻弄され、乾いた指を恋しがるようにひくりとそこがわななく。

「や……、めっ……」

ひくつく蕾を指で広げられ、理性を手放せない脳みそが羞恥に沸騰する。前戯も何もないままに、恥ずかしい場所を晒け出されて正気でいられるわけがない。綿製の布にくるまれた中心は緩く頭をもたげ、揺れて刺激を待ち望んでいる。

「ここは我慢したくないみたいだよ」

「んっ、あ……っ」

指先がつぷつぷと浅く入り込んでは抜けていく。火照る耳に歯を立てられ、気を取られた隙にぬぷんと関節ひとつ分を押し込まれる。背筋を駆け抜けたものは紛れもなく快感だった。
抜け出た指が不意に前へ回り、中心の膨らみをやわやわと布ごと揉まれて甘い声がまろび出る。

「ぁ、は……っ」

「可愛い。感じてくれたの」

「ふざけ、なっ……その、つもりで…っあ、ん……っ」

下帯の中でくちゅりと濡れた音がくぐもって聞こえる。湿りきった布に包んでゆるゆると握られると、腰を這い上がってくる痺れにどうしようもなく下肢が震えた。
あの日以来の優しい愛撫。心の隙間を埋め切れず、ひとり侘しく彼の上で揺れていた夜とは違う。触れられたところから溶け出してしまう、ねっとりと甘いキャラメルのような快感が体の奥に絡みついてくる。

「だ、め……って、言って…っ」

「この前は、僕が『だめ』って言ってもやめてくれなかったのに?」

クリスマスイブの件だ。火野もさして責めるつもりはないようだが、軽い調子で尋ねられた天子はぐっと奥歯を噛み締めた。

「それに、こうしないと鎮められないでしょ。このまま仕事に戻りたい?」

意地悪な指先が濡れそぼった先端をくりくりと抉る。痛むほどに張り詰めたそこはとても自然には収まらない。

「んむっ」

もう片方の指が唇を割って押し込まれる。引っ込めようとした舌を捕えるなりぬるぬると扱かれ、敏感な口腔を掻き回されて腰が幾度も跳ねた。

「気持ちいいの? 口の中もとろとろになってる」

「んぅ、む………っ」

彼のものを慰めるように、深く含まされた指に舌を絡める。性感帯ではなかったはずなのに、度重なるキスでたっぷりと愛されているうちに、粘膜はすっかり刺激に弱くなってしまった。
唾液を存分に捏ねた指が抜き出され、外気にひくつく後孔へ突き立てられる。

「んぁっ、ぁ……っ」

綻びを伝って押し開かれ、比較的すんなりと長い指を呑み込んでいく。内壁を擦り上げる指の動きにたまらず締め付ければ、鼓膜に低い声が流し込まれた。

「いい子にしててね」

「ぅあ、あっ、ぁ……!」

増やした指を大きく抜き差しされて、びくんと天子の背が撓る。弱点を探る指先は蠕動に導かれ、腹側の粘膜を優しく押し返した。刺激に応じてきゅっと狭まる窄まりを尚も広げてくる。

「ぃや、だ……っ、は、ぁあ……っ」

手のひらがべったりと尻に当たるほど奥まで貫かれ、生理的な涙が熱い頬を伝い落ちた。

「思ったより柔らかい」

「ぁっ、べつ…に、何もしてない……っ」

また不義の嫌疑をかけられては堪らない。かぶりを振って即座に否定する。
実際のところ、心当たりは何ひとつ思い浮かばなかった。自分で吐き出すだけならそこに触れずとも処理できる。というか、絶対に触れたくない。そこは彼に求められるからしぶしぶ開くだけで、好き好んで快感を得たい場所ではないのだ。

「そう? じゃあ寂しかっただけかな」

ぷちゅりと音を立てて指が引き抜かれる。両手の親指でくっと狭間を割り開かれ、濡れてひくつく後孔が露わになった。

「や……っ、見なくて、い……っぁ、んん……!」

再度、無遠慮に沈み込む指。翻弄される声を塞ごうと、手のひらを口許へ押し付ける。
立ったままの不安定な体勢で何度も指を受け入れているうちに、膝ががくがくと覚束なく震えてきた。上体を預けている古木の板をざりりと掻けば、背後からその指を優しく掬われて驚いた。

「ごめん、痛かったね。棘が刺さったりしたら大変だから」

指の先に口づけると、火野は己のコートをするりと脱ぎ、板張りを覆うようにして天子の前に広げた。温もりの残る生地を遠慮がちに手繰り寄せて尋ねる。

「さむく、ないんですか」

受験生が風邪など引いては一大事だ。微笑みながら、大丈夫、と言い聞かせる声にベルトを外す音が混じった。

「ぁ、あ……っ」

湿った内腿の間に昂ぶったものを差し込まれて背が撓る。そのまま腰を押しつけるように前後され、布越しの摩擦に中心が逐一刺激を拾い上げた。

「てんこがあっためてくれるんでしょ?」

「んぁ……っ、は、ぁ……!」

濡れそぼった布を隔てて、ぬるりと敏感な場所が擦れ合う感覚に内腿が震える。
冗談混じりの囁きは底知れぬ余裕を感じさせるのに、脚の間に入れ込まれた熱は自分を求めてやまない。ここがどこなのか、今がいつなのか、現実など構うものか。ただ欲されているという事実に、胸がひどく高鳴った。

「んっ……あっためるだけ、ですから」

右手を腰へ回し、捻り渡してある布ごと肉を掴んで狭間を押し開く。疼く入口がひくんとわななき、即座に羞恥と後悔に襲われるが必死で押し殺した。彼を欲する気持ちはそれ以上に、どうしようもないほど膨れ上がっている。

「ありがとう」

「っあ、ぁあ………っ」

燃えるように火照った耳へ口づけられた瞬間、体の内側を強かに貫かれた。漏れ出る声は止められず、ぐっぐっと腰ごと押し込まれる度に嬌声が喉を焼く。

「もう少し力抜いて。動いてあげられない」

「あ……っ、そんな、抜けな…っ…」

立ったまま体を繋げた経験などない。力を抜けば下肢から崩れ落ちてしまいそうで、加減がわからない以上、全身を奮い立たせるしかなかった。するとどうしても彼のものをきつく咥え込み、前後の律動を制限してしまう。

「ちゃんと支えるから」

「ぅあ、あ……っ」

腰を両側から掴まれ、ずんと深くまで捩じ込まれて涙が滲む。
小刻みに痙攣する内壁を隙間なく満たされて、ようやくありつけた欲望に粘膜が嬉々として絡みついた。その状態で腰を打ち込まれ、明確な弱点をわざとらしく穿っていく。

「は、ん……っ、まだ、ゆ、っくり……っあ、ぁ…っ」

性器の裏側を執拗に叩かれると、きゅんと腹の奥まで甘い痺れが駆け抜ける。ろくに触れられない中心はしとどに蜜を吐き出し、トントンと突かれる度に下着の中で小さく弾けた。全てを呑み込む絶頂の波が、恐ろしい速さで迫ってくる。

「本当に? ゆっくりしていいの?」

「んん……っ」

抜き出されそうになった熱芯を引き留めるべく、入口がきゅっと反射的に窄まった。正直にかぶりを振った天子に彼は苦笑をこぼし、抱き寄せるように腰を進める。

「あ、ぁあ……っ」

再び隘路を押し広げられる圧迫感に目が眩んだ。過敏な内壁を存分に擦り上げるや否や、たんたんと腰を打ち付けられて身悶える。

「うぁ、あ……っ、それっ、やぁ………!」

体の内外で密着しながら疼きの元を掻き回される。抽挿に従って腹側の凝りを転がされれば、粘膜が呼応するようにねっとりと彼のものを包み込んだ。

「ここ、すごく締めつけてくる。我慢しなくていいのに」

「やっ、ぁ……っ」

耳を食み、うなじをたどり下りた唇が甘やかすように囁いた。限界を悟られているのが恥ずかしくて堪らず、彼のコートに突っ伏して顔を見られまいとする。


next

×