SS R18 | ナノ
SS R18
1000~2000字 短文


 0002

・全部脱いでほしいてんこ

「これ、脱いで…」

「ん?」

清潔なシャツをくいと引っ張る。
躊躇なく天子の下衣を剥ぎ取ろうとした火野が、不思議そうな顔で動きを止めた。
視線を逸らしたまま、だから、と天子は言い直す。余計な話は慎みたい場面だが、やむを得まい。

「こういうのって普通、どっちも脱ぐもんじゃないですか。俺だけじゃなくて」

「そうなの?」

「そうなのじゃねえよ」

何をすっとぼけているのか。場数だけなら天子の何倍も踏んでいるくせに。
いつも自分ばかりが肌を晒して、彼はボタンを少々外すくらいで済ませてしまう。服が汚れてもお構いなしだ。せっかく抱き合うのなら、肌と肌を重ねていたいのに。
んー、と彼は明後日の方向に視線を移す。どうでもいいと言わんばかりの態度だ。気持ちが冷めてしまったのか、先程まで熱を紡いでいた指先も止まったまま。天子は脚をもぞもぞさせる。

「何となく嫌なんだよ。だってほら、こういう時は特に無防備でしょ? なのに服まで脱ぐなんて怖くない?」

「は?」

意味がわからない。草食動物がサバンナでまぐわうならともかく、平和な日本で、天井と壁に囲まれた空間で、何を恐れているのか。時代劇じゃあるまいし、天井裏から手練れの忍者に襲われることもない。

「俺は脱いでんじゃん」

「でもベッドと僕に挟まれてるから怖くないよね」

埒が明かない。

「んじゃ布団被れよ!!」

焦らされる苛立ちに任せてがなり立て、ぜえぜえと肩で息をする。愛し合うはずのベッドで、何を必死に叫んでいるのだろう。
しかし彼は「あ」と目から鱗が落ちたように瞬きをして、そっと微笑んだ。長い指がシャツのボタンをひとつずつ外していく様に、思わずどきりとしてしまう。

「それもそうだね」

羽毛のコンフォーターをまとって、彼は脱ぎ落としたシャツをベッドの下へ放った。

ーーー

「ん、っ……」

触れるだけの口づけすら気持ちがいい。しっとりと半身が重なり、無我夢中で背中を抱き寄せた。白く滑らかな肌は天子の体温を吸って、ほんのり色づいたように見える。羽毛に遮られた暗闇の中で、下肢が擦れる度に目眩がした。

「いい?」

囁きに小さく頷くと、上体を僅かに起こした彼が脚の間に体を入れ込む。そのままゆっくりと腰を進められて、狭い場所を開かれる刺激に胸を反らした。

「っは、ぁ……っ」

腿を抱えられ、繋がりが徐々に深まる。彼が覆い被さってくる。穿たれる衝撃を逃がすべく、天子もきつくしがみついた。
そこでハッと我に返る。

(俺、いつも…)

抱き合う時は決まって、皺の寄った彼のシャツを掴んでいた。堪えきれなくなると、爪を立ててすがりついた。
しかし今はどうだろう。この剥き出しの背中を、愛しい人の肌を、傷つけることなど以ての外だ。

「ん、あっ、待っ……」

嬲るように抜き出しては粘膜を突き上げられ、咄嗟にシーツを握りしめる。足りない。これでは我慢できない。
一方的に体を押さえ込まれ、腰を打ち付けられてビクビクと下肢が震える。律動に従って中心が擦れると、彼の腹部が恥ずかしい雫で濡れそぼっていく。

「ほら。遠慮しないで」

彼が天子の両手首を掴んで己の首に回す。より密着した状態で揺さぶられ、腰の動きまで鮮明に感じ取ってしまう。
どうあっても彼を傷つけるわけにはいかず、自分の左腕に右手で爪を立てた。その痛みすら快感で押し流され、天子はぎゅっと目をつむる。

事を終えて間もなく、やっぱり脱がなくていい、と撤回したことは言うまでもない。




 0001

・受→攻 ご奉仕

震える舌を押し付ければ、指で触れた以上の熱さにびくりと怯む。が、切羽詰まったこの状況で怖がっている場合ではない。そのままゆっくりと舐め上げ、括れた部分を舌先で刺激する。

「いい子」

髪を掻き混ぜる手のひらも、どことなく余裕がない気がする。暴発しそうな熱の先端を吸い上げると、応じた苦味が溢れてうっと顔をしかめる。この味にはどうしても慣れることができない。

『昼休みに会いに来て』と熱烈なメールを授業中に受信した天子は驚いた。黙っていたって放課後は部活で顔を合わせるのに、どんな気まぐれと奇跡が働いたのだろう。
チャイムと同時に、昼食そっちのけで部室へ向かった。彼は心底ほっとした顔でおいでおいでをしてくる。そんなに会いたかったのか。柄にもなくドキドキしてしまった。

「よかった、来てくれて」

いつになく甘い声と、手の甲をなぞる指が妙にいやらしい。昼休みでは時間の猶予もない。そういう気分にならないよう、つとめて冷静に用件を質したのだが。

「頼みたいことがあるの」

「っ、ん」

不意に指先で唇の隙間をこじ開けられ、舌をつんとつつかれる。後ずさろうにも、腰を抱かれてしまえば逃げられない。

「ここ、ちょっと貸して」

濡れた唇のふちをつうっとたどり、彼は最低の台詞で命じてきた。

ーーー

「何の反動か知らないけど、時々こうなるんだよ。朝起きたらもう絶望でね。本気で遅刻するかと思った」

「ん、んっ、……」

丸い先端を口腔にはめ込み、賢明に舌を繰って彼のために快感を紡ぐ。体液と自分の唾液とを飲み込んで、ただ気持ちよくなるように、粛々と奉仕を続ける。
呼吸は苦しく、顎も舌も怠い。けれど愛する人に請われて、断ることなどできようか。床に膝をつき、ソファに腰掛けた彼の下肢に頭を埋めて。言いなりになるしかない情けなさを感じては、優しく髪を撫でる手に絆される。

「もっと入る?」

「ん、ぐっ……」

ぐっと後頭部に圧をかけられ、より深く咥え込む。みっちりと口腔を占める熱量に、丸めた背中があやしく震えた。
きつく締めつけた唇で扱くと、硬い楔がとろけた粘膜をビクビクと小刻みに揺らす。気持ちよくなってくれているのなら嬉しい。ぬるぬると舌の上で往復させながら、入り切らない部分は指で包んで擦り立てた。

「上手」

褒めるような声もいつもより上擦っていて、意識すれば一際胸が高鳴った。断続的に流し込まれる味すらもはや愛おしく、必死に舌を絡めて彼を悦ばせようとする。濡れた音を立てて吸い付くと、先程よりも強く頭を押さえつけられた。

「んん、ぅ、う……っ」

喉まで開かれる苦しみに、涙で視界がぼやけ、声にならない呻きが漏れる。抵抗する間もなく叩きつけられた熱情に、喉の奥がひどく痙攣した。最後まで扱くようにぬくぬくと腰を動かされ、粘膜をたっぷりと蹂躙される。

「げ、ほっ……!」

抜き出され、気道に空気が入り込んだ途端、口を押さえて噎せてしまった。飲み込みきれない濁りが手のひらを汚す。滴って制服を汚す前に、清潔なタオルで丁寧に拭われた。

「ごめん。苦しかったね」

ぐちゃぐちゃの顔にもタオルが触れると、天子はそれを奪い取って雑に肌を擦る。目も鼻も口も、余さずごしごしと拭いて立ち上がった。膝ががくがくしている。

「帰る」

短く言い放ち、タオルを放って部室を後にした。勢いよくドアを閉め、大股で実験室を抜ける。足早に廊下を進んで、間もなく男子トイレの個室に入った。はみ出たシャツの裾を握って小さく体を震わせる。
なんて勝手なのだろう。『恋人なのに』ではなく『恋人だから』とわかっているけれど。呼び出して、一方的に処理を命じて。
そんな扱いに、興奮しているなんて。

「ん、っ」

残滓がまだ、喉に張りついている。口の中に感じるどうしようもない苦味。唾液と共に舌の上で転がせば、膨らんだ下肢がびくんと揺れた。

(絶対バレた…)

『腰、ずっと揺れてたよ』なんて揶揄されて、また乱暴に口を犯されたらどうしよう。逃げられないよう頭を掴まれて、苦しいと泣いても離してもらえなくて。
味覚に意識を向けたまま目をつむり、覚束ない指先でベルトを緩める。




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