あかしくんとえほん
空が茜色になった頃。
泣き喚く征十郎くんはおかあさんに連行されていった。
どうせ明日会えるよ征十郎くん。
おねえさん朝早くから犯人役と死体役と家政婦役やったからね。すっごく疲れてるんだ。
この年になると体力が無くていけないよ。と正反対の事をいいながらなぜか年よりじみたこと台詞を脳内で呟き
征十郎くんを笑顔で見送った。
「ばいばい!せいじゅうろうくん!」
そしてその夜私は湯船で溺れかけ、ろくに食事もとらず泥のように眠った。
お昼寝もしなかったからよく眠れたことだろう。私。
そして翌日。
昨日のインパクトある彼らの訪問で忘れかけていたが、本来は今日私達が征十郎くんの家に行く日なのだ。
幼女向けアニメを見逃すのは非常に残念だが少なからず征十郎くんに会うのが楽しみになってきている私。
征十郎くんより友達がいるとはいえ、おそらく一番征十郎くんと仲良くなっているんじゃなかろうか。まだそんなに会ってないはずなんだけど。
まあ私の友達ったって母に連れられて公園で遊ぶとき混ぜてもらう顔見知りレベルだし。
おねえさん体力なさ過ぎてダウンしちゃうからすぐ帰っちゃうし。
幼児特有のハイテンションには流石に長時間ついていけない。
あの元気はどこから湧いているのか非常に興味深い。
むしろ元気を吸い取られている気もするけど。
だから、征十郎くんのちびっことは思えない落ち着きは割と好きだったりする。
ちびっことは思えない落ち着きだが。(二度目)
泣かなければ言うことを割と聞いてくれる子だしなにより賢い。
それに運動神経が非常によろしく、鬼ごっこ系統の遊びで勝てたためしがない。
勝つ度ドヤ顔でこちらを見てくる征十郎くんはそれはそれは小憎たらしい。
征十郎くんの家に到着し母が呼び鈴を鳴らす。
一言二言会話をしてから私の方を向き微笑んだ。なんで?
すると玄関から音が聞こえてきてなんか……
タックルされてる。痛い。
覚えがあるぞこの感覚。
また気絶するんじゃないかな。
と胃の中でシャッフルされる今日の朝食の事を考えたが
心配は無用だったようだ。
「まあまあ征十郎」
と赤司母がぺりっとそれはもう軽く彼を引きはがしてくれた。
しかしまだ征十郎くんの腕は私を掴んで離さない。離せ。
それを赤司母はニコリと笑い可愛いわねとスルーした。
初めて会った時から思ってはいるが、この赤司母にはなんか逆らえない。
あれだ、征十郎くんとよく似た目力があるというかなんというか。
「いらっしゃい照子ちゃん。ゆっくりしていってね。」
綺麗な笑顔で部屋に通してくれた赤司母にペコリとお辞儀をしつつリビングへ向かう母たちに付いて行った。
「しょうこちゃん!そっちじゃないよ!」
そういう彼はぐいぐいと私の腕を引き別の部屋に。
彼には自室があるそうだ。ちいさいくせに!まだ私なんか自室作ってもらえてないよ!
「しょうこちゃんとあそびたくていっぱいえほんかってもらったんだよ!おかあさんからえほんすきってきいたから!」
ブルジョワか。
いや、薄々そうだろうなとは思ってたけど。
「ありがとうせいじゅうろうくん!」
「これぼくのおきにいりなんだよ!」
とまあ、何冊か本のやり取りをしてお互い読書タイムという何しに来たのかよくわからない時間を過ごす。
悲しいことにうちの家にある絵本より字が多くて面白いです。
生前読んだ懐かしい本とかいっぱいあったんでそれはそれは楽しい時間でした。
ただ征十郎くんの事をすっかり忘れてしまって。
しばらく経って、彼は私に話しかけてきました。
「つまんない。しょうこちゃん。」
と、私の読んでいた絵本を取り上げ後ろから抱きついてきました。かわいいな。
「ごめんね」
「しょうこちゃんはぼくよりほんのほうがだいじなの?」
子犬の様な表情で訪ねてくる征十郎くん。きゅっと私をつかむ手に力が入った。
「そんなことないよ」
「ぼくとあそぶよりたのしい?」
「ううん。せいじゅろうくんといたほうがたのしいよ」
「ほんとう?」
「ほんとだよ。」
「うん……よかった。」
そういえば、次に彼の家に行ったときに絵本がごっそりなくなっていたのが印象的だったな。
新品だっていってたのに。
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