認可しない
照子が死んだ。
その事実に三成は耐えられなかった。
彼女が死した日。
それだけのことだと
そう大谷は兵士に語っていた。
照子が病で寝込み、目覚めなくなったあの日から私は彼女の目を覚ます方法を探し、彼女を起こす為に行動していた。
かつて僧が第六天魔王を蘇らせたように。
どれだけこの日を待ち望んだか。
ただ、彼女の居ない日々は余りにも長く、虚しく感じていたのは確かだった。
闇の婆娑羅で吸い上げた幾多の生贄の生命力が妖しく光り、それを布の上に横たえさせた照子の体に吸い込ませる。
この為に一体何人生贄にしたかわからない。
たしか村が一つ犠牲になったと刑部が言っていたが私にはとても些細な事であり、興味のないことだ。
やっと望みが叶う時が訪れた。
私は興奮する胸を抑え、震える手で、しかし慣れたように照子の頬を優しく撫でた。
「照子。起きろ照子。」
照子の指先が反応した。
「いつまで待ったと思っている」
睫毛がふるりと動き、濁ったギヤマンのような瞳が私を見つめた。
「私が分かるか。」
こくりと微かに頷いた。
「いいか。私の許可なく命を落とす事を認可しない。」
「私から離れる事を認可しない。」
「私を拒絶する事を認可しない。」
それを聞いた照子は、淡く笑った。
丁度あの日あの時と同じ表情で。
私は硬く冷たい照子を壊さぬように気を払いながらも、無意識に強く照子を抱き締めていた。
きっとこの先。
照子の肉体が土であろうとも、
氷のような冷たい肌であろうとも、
二度と私の名を呼ばずとも、
照子が私の傍に居るならば。
私は照子の崩れ行く手を取り幾多の犠牲を払おうともその手を離す事はないだろう。
たとえ私の手が朽ち果てようとも。
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