柳君と
「うわぁ…。雪…」
一年ぶりの雪。図書室から見える風景はいつもとは全く違っていて、言葉通り辺り一面銀世界。
しんしんと雪が降り積もる中、いつも静かな図書室はさらに静かに感じた。
滅多にないほぼ完全と言える静寂に心地よさを感じながらカウンターで本を読む。
もう誰も来なければいいと思っていた。
図書委員としてこの願望はいかがなものか。
まぁ、そう簡単に期待通りに行かないんだけど。
「この本を頼む。」
さっきの静寂を惜しみつつ、本に栞を挟んで顔を上げる。
黒髪に糸目
この人の目は見えているのだろうか。
「クラス番号と名前は?」
「三年F組19番柳蓮二だ。」
なんか見たことあると思ったら。
ああこの人はあのテニス部の有名な参謀だったのか。
私の友達ならば喜ぶかもしれないが生憎とそういうのに興味はない。
今までこの人達とは違う世界に生きてきたし、これからもそうだと思っている。
ただ図書室ですれ違う他人。
「期限は一週間です。」
本を渡して読書に戻ろうとした。
すると柳蓮二がいきなり声を掛けてきて、
「なあ、お勧めの本はないか?速水」
いきなり何だとか話したこともないのにとかどんな本が良いのかとかいろいろ頭を駆け巡ったけど頭で考えがつく前より早くはいどうぞと自分が読んでいた本を渡してしまった。
「それは読んでいる途中ではないのか?」
「いいの。いつでも読めるし。」
自分から差し出してしまった手前やっぱり返して下さいなんて言えないし、何より自分の頭が混乱していた。
本のことなんてもうどうでもよかった。
心臓が破裂してしまうんじゃないかというぐらい激しく鼓動している。
顔が熱い。
な に こ れ
今まで自分が何度か体験したアレに似た感覚。
セカイが繋がるオトがした。
(ああ、まるで)(私が柳蓮二に恋したみたいじゃないか!)
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