私の懐が寒い
私の懐が寒い
財布をすられたのは嘘じゃないらしく3日ほど前から何も食べてなかったと語る彼の目の前にはざるが4つ。
食べたのは全て彼で、
「いやーわるいね!」
等とのたまいながら五杯目のそばを笑顔ですすっている。
こいつは遠慮というものを知らないのか。
想定外の出費に私の懐は薄くなっている。
はったおしてやろうかこいつ。
みたところよい身なりをしているし言動からして武家っぽい。
既に私の中で面倒な奴に確定しているのである。
「へー!生き別れた弟を探しにねー。」
「そうなんです。風の噂で弟が生きていると聞いていてもたっても居られず…」
「そうかい!なら俺も手伝うよ!恩返しにさ!」
私を助ける前に自分の心配をしろこの文無し。
「いえ、いつまでかかるかわからぬこの旅。あなたにご迷惑を掛けるわけにはゆきませんましてやあなた自身が不幸の真っ只中でございましょう。」
「でもさー。」
「よいのですよ。見返りが欲しくてあなたを助けたわけでは無いのです。」
「おっちゃん!おかわり!」
まだ食うのかこいつ締め上げるぞ。
あたらしくザルにあげられたばかりのつやつやとしたそばをずるりと啜りこの男はひらめいた!と言わんばかりの表情で言った。
「わかった!俺これから城に用事があるんだけどさ。そこで聞いてみればいいじゃん!」
やっぱりこいつは面倒な奴だ。
「わざわざ城までいかずとも、町の人の方がそういうのには詳しいのでは……?」
「いやー。ね?俺の知り合いがしょっちゅう町を探索してるからさー。人相とか詳しいんだよ。な?」
な?じゃない。なんで私がそんな飛んで火に入るような真似をしなければならないのだ。
それは断固として拒否しなければ。
押し問答を続けているうちにやつはいきなり私の手を鷲掴み
「いいからいこう!」
と店を出た。
あわてて店に御代を払う隙だらけの私を男は米俵よろしく抱きかかえ、奴は走り出した。
明確な殺意
こいついつかぜったいしばく
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