我の忍が天井裏から出てこない


我の忍は優秀であると言い切れる。

ある一点を除いては。



「照子、居るか。」

「おい照子。居るならすぐ来い」





出てこない。
何度呼んでも出てこない。
しかし天井裏からなにやらカタカタと小刻みに物音がする。
優秀な忍だとは思えない音のたてようである
恐らく奴がいるのであろうと推測してさらに呼びかける。
どうせまただらだらと冷や汗をたらし、天井裏で置物のように固まっているのだろう。
毎回毎回そうなのだから。

「おい照子。そこに居るのであろう。すぐ来いといったはずぞ。」

「……申し訳ありません主様。」

やっと返事が返ってきた。
帰ってきたと思いきや、天井裏からは完全に出てきていない様である。
あろうことか奴は天井から顔を半分出して返事をしている。
他の者ならば即打ち首にしているものだが、なぜしないかと言えば
有能だから、ほかの忍より使えるから、等と理由も出てくるが、
一番はきっと、我は彼奴を存外気に入っているのだろう。

「照子。呼び出しの時は全身を見せよと言っておるであろう。出てこい。」

「主様その言い方では卑猥です。」

「誰が脱げと言った馬鹿者。天井から出てこいと言っておる」

「主様。恥ずかしいのでこのままでは……」

「今この状態が既に無礼だということもわからぬか」

「いえ無礼だとは主様の視線でジリジリと感じてはいるのですが
どうしても恥ずかしさが上に来てしまうのです。お許しを。」

「お許しをではないであろう。貴様は一言多い故余計に腹が立つ。」

言い合っても埒が明かない。
我が折れるしかなかろう。
貴様だけぞ。ここまで我が譲歩する奴は。


任務を言い渡し数刻、奴が報告にきた。




天井から。



「主様。ご報告に参りました。」

それから任務成功の報告やその周辺情報等を聞く。
もちろん天井から顔を出したままの状態である。
器用にも奴は苦しそうな体制のままゴソゴソと懐を漁り、報告書類を投げてよこす。

「天井からというのは既に諦めたも同然よ。
しかし書類を投げてよこすとはよほど輪刀の錆にされたいと見える」

するとこいつは本当に我に仕えている忍なのかと疑問に思うほどふてぶてしくこういった。

「ですが主様。ここからでは投げ渡す以外に書類が届きませぬ。」

「降りてくればよかろう」

至極簡単な解決方法だと思うが彼奴はそうではないらしい

「私は我が主の命ならば先陣を任されようが切腹を言い渡されようが華麗にやってのける自信がありますがそれだけは嫌でございます」

「我への忠誠心を語る前にその恥ずかしがりを直せ馬鹿者」

照子は切腹も華麗にやると言った。
もしかして彼奴は切腹も天井裏でやるのではないだろうかと脳裏をよぎった。
切腹を命じた後、我の部屋の天井からまるで雨漏りのように血がしたたり落ちなおかつ天井裏には死体が。
なんてことになればこの夏の怪談話になりうるのではなかろうか
至極些細な興味本位で切腹を命じてみたくなったが実際そんなことをされてはたまったものではないと今話している話に集中した。

「まあよいわ」

彼奴が相当な恥ずかしがり屋というのは既に知っているし、無礼だなんだといちいち言うのも
無駄だとはわかっているのだがそれでも言ってしまうのは、自分の中のどこかで素顔も見たことがないこの部下と面と向かって話したいという気持ちがあるのだろうと推測しているし
気に入っているこの忍がこれから自分の前に姿を現すようになれば愉快だと思った。

「貴様がいつか天井からではなく畳の上で手渡しでの報告書類の受け渡しができるように我が直々に躾してやろうぞ。
ありがたく思うがよい。」

そういうと奴はみるみる内に顔を青くしていき、天井がガタガタと音を立てた。
相当動揺しているのか、忍らしからぬ音を立てている恐らく逃げたのであろう。
良い気味よ。

今まではお互いが割と仕事上の付き合いしかしてこなかった故、この先の奴の反応を想像するとかなりよい気分である

一番のお気に入り

我が奴に対して気に入っている以上の感情を持っているのだと気づくのはもう少し先の事だが。




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