わたしといたずら
私は黒ずくめ見知らぬ男に愛してると言われて刺殺された。
私が一体何をしたのだろうか。解せぬ。
私の名前は速水照子のはずだが、
「恵美子さん愛してる!愛してる!だから一緒に逝こうよ!ね!そうすれば一生傍にいられるじゃないか!」
と言ってやつは私の胸を刺してきたのだ。
誰だ恵美子って。
その女性を愛している癖に人違いで殺人とは尚更解せぬ。
もし彼がその後間違いに気づかぬまま後追いでもしてしまったら、私は彼と一生傍に居なければならないのか。
もう今生終わってるけど。
もしも来世があるとすれば人生謳歌して80越えのおばあちゃんになりたい。
旦那に看取られて、娘息子と孫に看取られて安らかに死にたい。
少なくとも今のように血を吐いて苦しむようなBADENDだけはお断りである。
朦朧とした意識の中、来世に思いを馳せて私はは息を引き取った。
何年も前の事だから細かいことは覚えていないけど、獣のように赤くギラギラと光る目は強く印象に残っている。
その後何が起きたかはまるで分らない。
しかし目が覚めたとき、私は小さな小さな女の子だった。
ああ、来世って本当にあるんだ。といるのかもわからなぬ神に感謝をし、今生こそはと決意を新たにした。
両親は大層私をかわいがってくれている。
経済状況も悪くない。
他人への私の紹介で名前は変わってなかったと知った。
前世の友人や思い出が緩やかに私から出ていくのを私は止めることはできなかった。
やっと歩けるようになった頃、両親に隠れて必死に手の届かないところにある紙とペンを探し出し
チラシの裏に大事なことを汚い字で書き殴り、壁とタンスの裏に隠した。
親の大掃除にさえ気を付ければ、大きくなった頃この汚い字が読めれば、
前世での大事な両親や友人の名前くらいは忘れずに済むだろうかという悪あがきである。
この人生を謳歌し、前世の事を墓まで持っていければ後悔はないだろう。
そして今日も今しかできないイタズラをしようじゃないか。
これも人生を謳歌するためである。許せ。母よ!
「ああ!照子!またいっぱいトイレットペーパーとティッシュ出して遊んでる!全くあの子は!」
「きゃっきゃ!」
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