あかしくんとけっせき


おそるおそる彼から話を聞きだすと、最初は和やかなムードで鬼ごっこをしていたらしい。
そこに混ぜてもらった征十郎くんは鬼側からスタート。
あれよあれよと言う間に全員捕まえた征十郎くんはその次のかくれんぼやだるまさんが転んだ、缶けりなどで勝利を収めた。
当然面白くなかった他の子達は次にドッジボールを提案した。
その時利き手で投げない等様々なハンデをつけたそうだが案の定征十郎くんにこてんぱんにやられてしまったそうだ。

なにそれこわいんですけど。

負け続けた園児たちは悲しいやら悔しいやらで現在の状況に至るという。

養豚場の豚でもみるかの様な目で周りを見ていた征十郎君は先生でさえドン引きしてたし、実際その後私に笑いかける征十郎君を見た私が彼の将来を案じてしまうのは仕方ない事である。
彼はきっとはじめて大勢の子と遊んではしゃぎ過ぎたに違いない。
そう自分を無理やり納得させて私は征十郎君を廊下に連れだし諭すことにした。
もう二度と幼稚園児にトラウマを植え付けるような事が起きてはならないのだと。
相手と遊ぶときは思いやりだとか相手も楽しめるようにだとかつらつらと述べた後、たのしかったか問い

「つぎはわたしもいっしょにあそびたいな。きょうはごめんね。」

と締めくくった。
征十郎君はわかった!と反省してるのかしていないのかわからないにこにことした笑顔で返事をした。
周りの園児に出す声と180度違う声をたまたま聞いた先生がこちらを二度見していたのは私だけが知っていればいいのである。

無い頭で必死に柔らかくわかりやすく噛み砕いて征十郎くんに説明することに耐え切れなかった私の脳は限界だったらしく私は翌日の幼稚園を休んだ。
母の反応を見るに割と高熱だったようだ。
迎えにきた征十郎くんが冷えピタを張った私を見るなりさっと顔を青くして

「だいじょうぶ!?くるしい?あたまいたくない?ぼくもようちえんやすむ!しょうこちゃんといっしょにいる!」

そう捲し立てた征十郎君が私に抱き着いて離れない。
離せ。くるしい。吐くぞ。

「ごめんね。きょうはおやすみするんだ。でもせいじゅうろうくんはわたしのぶんまでいっぱいおともだちつくってほしいの。それで、しょうかいしてくれるとうれしいなあ」

「わかった!いっぱいともだちつくるから!しょうこちゃんがおぼえきれないくらいいっぱい!きのういわれたこともちゃんとやるから!しんじゃやだよ!」

といった征十郎くんはなかば征十郎くんのお母さんに引きずられながら幼稚園に向かって行った。

死ぬだなんてなんて大げさな。
と、私は子供の抵抗力を甘く見ていた。
昼ごろには完全にダウンし、布団から一歩も出られず死んだ前世のばあちゃんに遭遇するんじゃないかというぐらいの悪夢をみた。

幼稚園の帰りに私の家によった征十郎くんがそんな私の姿をみて大泣きし、夜になっても帰ろうとしないのが私にとっての最大の修羅場だった。

今日既に幼稚園が征十郎くんに洗脳されていたなんてつゆ知らず。
私は熱で蕩けた思考でお見舞いに征十郎くんが持ってきてくれたみかんゼリーが美味しいと呟くのであった。


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