「はぁ、お騒がせしました。私はここらでお暇しますね。お礼をしに来ただけですから」

私がそう言って立ち上がると、万事屋の皆さんも立ち上がった。どうやら玄関先までお見送りしてくれるらしい。玄関で靴を履き、「お邪魔しました」と挨拶すると、「また来てくださいね」と新八さんが笑った。神楽さんも手を振ってくれている。
私は戸に手をかける。

「……………そーいやいちご牛乳切れてたわ」
「アレ、そうでしたっけ」
「飲んだ。全部飲んだわ。俺死ぬからなアレないと。買ってくらァ」

すると坂田さんが口を開いた。彼はいそいそとブーツを履き、外出の用意を済ませると私に目で早く戸を開けろと訴えかけてきた。私は頷き戸を開けた。もう一度「お邪魔しました」と挨拶をして、万事屋を出た。カンカン、と音を立てながら階段を降りる。後ろには坂田さんがいる。

「坂田さんも、ありがとうございました」
「あ?お、おう」
「ドーナツ美味しかったらまた買ってきますから、感想教えてくださいね」
「……おう」
「それじゃあ、また今度」
「ああまた今度…………」

っていや、おかしくね?

と、言うのは私が坂田さんに手を振り3歩歩いた頃合いの彼の言葉である。私はきょとんと首を傾げた。

「えっと、何か…?」
「いやいやいや!!何かじゃねーだろ!!アレ俺がおかしいの?名前お前俺に告白しなかったけ?!好きですって言わなかったっけ?!」
「あ、言いました 。告白しましたね」
「そーじゃねーだろ!なんっでそんな普通なんたよ、こちとらガチっぽい告白された後に気ィ失われてどーしたもんかドギマギしてたってのに何?!銀さんの純情を返せよォオ!!」
「え、すごい。気にしてくれてたんですね」

嬉しいです、と私は微笑んだ。その微笑みに坂田さんは毒気が抜かれたように肩の力を落とした。そして大きなため息を吐いた。

「てっきり?ウブな名前ちゃんは告白逃げしちゃった銀さんにどう接していいかわからず気まずい感じになるんじゃねーかとか思ってたら引くほど自然じゃねーかよ。アレか?告白して満足しちゃったのかな?」
「いえ、坂田さんのこと、今でも大好きです。キスしたいです」
「……………………あ゛あそう」

早口で捲し立てた坂田さんに私は言葉を返す。すると彼はしばらく黙った後に、顔を覆った。さらにこっちを見るなと言わんばかりに顔を背けている。私は思わずふふ、と笑ってしまう。

「坂田さんのこと、すごく好きです。付き合いたいです。でもそれは、今じゃなくてもいいんです」
「私がもっともっと強くなって、私が私の大切なものを守れるくらい強くなったら、がいいんです」
「一緒に大切なものを守れたら、それって最強でしょ!」

私の言葉を聞いた坂田さんは、手を退け、私に顔を見せた。ほんのりと顔が赤かった。

「………お前そんなんだっけ。マジで新しいキャラ付けでもしてんの?」
「坂田さんだけですよ。だって坂田さんのせいですから」

過去の私が今の私を見れば、どこかで頭をぶつけたのだろうと思うはずだ。自分が恥ずかしいことを堂々と言っている。それも微笑みながら。けれど、それが今の私である。私は私のなりたいもののために必死に生きようと思う。どんなに恥ずかしくてもどんなに無様でも、最後に好きな人に誇れる自分になりたいと思っている。

「ね」
「……あーそう、なるほどね。名前は銀さんが好きで好きでたまらないってわけね。いやぁけど俺ってば主人公だからなァ、かぶき町の一●楽とは俺のことだから。ウカウカしてっといつの間にか男装女子とかお嬢様とかに囲まれて最終的には正ヒロインとデキっから。マジで泣いても知らねーよ?」
「かぶき町の古●川唯とは私のことです 」
「誰もダークネスな話はしてないでしょーが!お前乳首まで見せる覚悟あんのか!?」

そこまで言われて、私は流石にちょっと微妙な顔をする。乳首か、そこまでは考えてなかったかもな…。悶々としていると、頭に手のひらが乗せられた。坂田さんの、大きな手だ。

「あーーー………なんだ………まぁ………」
「待っててやるよ、とりあえずはな」

雑に頭を撫でられる。頭を軽く抑えられて坂田さんの表情は見ることができなかったが、声色からして、また照れているのかもしれない。
私は頭を撫でる手に触れた。頭から手が離れ、私はその手の温もりを確かめるように、一瞬だけ、ぎゅ、と彼の手を握った。坂田さんの手だ。私の好きな人の手。今はこの手を握る事は出来ない。この手を握れるような自分ではない。けれどいつか、いつかこの手を握れるようになったら、もう一度坂田さんに好きだと言おう。その時私は泣くことになるかもれない。けれどきっと後悔はしない。

少し早足に歩いて坂田さんと距離を取る。振り向いて、大きく手を振った。

「私、一度掴んだら離しませんからね!」

それじゃあ!と、別れの挨拶をして。

私はかぶき町を駆け抜けた。

「………くっそ、調子狂うわ……」

そんな坂田さんの声が、聞こえたような、聞こえなかったような。






深海魚の川流れ





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