ぴんぽーん。
呼び鈴を鳴らすと、すぐに扉の向こうから「はーーい」とした声が聞こえた。そして足音。待つこともなく戸は開いた。そこには眼鏡をかけた少年がいた。この子が、万事屋の新八さん。彼は私がが名乗る前に、私の服装を見て口を開いた。

「あ、名前さんですか?」
「はい、名字名前です。神楽さんはいますか?」
「はい!神楽ちゃーん!名前さん来たよー!さ、どうぞ、上がってください」

新八さんは奥に向かって神楽ちゃんを呼んだあと、私を万事屋に招いた。私は彼に続いて万事屋にお邪魔する。居間に続くと襖を開くと、そこにはソファーに座る神楽さんに床に寝転ぶ定春くん、そして社長用であろう椅子に座る坂田さんがいた。私の顔を見た神楽さんの顔が綻んだのが見えた。嬉しい、と同時に少し照れくささを感じた。

「おお名前!来たアルか!ソレ何?食べれる?」

彼女は私が右手に持っていた紙袋を指差す。私が頷くとさらに顔を明るくさせたが、新八さんに「がっつかないの!」と注意され、すぐに不貞腐れた顔になった。

「何アルか新八。そんなこと言うなら、お前の分はないってよ」
「そーゆうことじゃなくて! 」
「はは、皆さんの分ありますから」

きっといつものように言い合いをする2人に思わず私の顔も綻ぶ。私は紙袋を新八さんに手渡した。

「どうぞ。皆さんで召し上がってください。定春さんにはコレで大丈夫か不安なんですけど…」
「ああ、ありがとうございます…ってええ、コレ有名なとこのドーナツじゃないですか!え、定春のドックフード、セレブ御用達のやつだ!?あ、酢昆布も入ってる…」

ちらりと紙袋の中身を見た新八さんが驚いた声を上げた。私としては、彼らのお口に合うものを差し出せたか心配だったが、彼らの反応を見るにその心配は必要ないらしい。副長も絶賛したドーナツ専門店の味は伊達じゃない。定春くんの元気な返事も聞けた。

「やるアルな、名前ー!!万事屋を分かってるナ!専属マネージャーにしてやってもいいアルよ。ね、銀ちゃん!」

神楽は直ぐに紙袋に飛びついた。興味津々に中身を見ながら、坂田さんの名前を呼んだ。その場にいる全員の視線が坂田さんに集中する。彼は頬杖を付きながらこちらを見ていた。

「ん?あ、え、何ィ?何でも屋の俺が人気有名お天気お姉さんの専属マネージャーになる話?」
「どこの漫画が読めるハッシュタグですか!!銀さんも早く食べないと神楽ちゃんに全部食べられちゃいますよ」
「あ?いや、俺和菓子派だから」
「いっつもパフェ食ってんでしょーがアンタ!!どうしたんですか、なんか変ですよ」
「ハァアア?!変?!何が?!全ッ然普通だけど?!」

坂田さんはばん!と机を叩いて立ち上がる。そのこめかみには少しの汗が見えた。

「坂田さんも、是非」
「お、おう」

にこり、とは笑い掛ければ彼は拍子抜けしたような表情を見せた。そして椅子から離れ、ドーナツに手を伸ばした。

「あんっ銀さんっやっぱり私と1つのドーナツを分け合いたいのね!でも折角なら丸いドーナツじゃなくてこのチュロスを互いに加え合って」
「チュロスはディ●ニーで食うもんだろうが」

しかし坂田さんが掴んだのは私が用意したドーナツではなく、突如現れた眼鏡女の胸に刺さったチュロスであった。自分が掴んだ物が変異物だと気づいた坂田さんはそれを抜き取り女の頭にぶっ刺した。後頭部から血が吹き出ているのが見える。チュロスどんたげ固いんだ。

「何さりげにレギュラーみたいな顔して混ざってんだお前は!俺が食いたいのはイイトコのドーナツであってテメーの用意した卑猥物じゃねーんだよ!」
「卑猥物だなんてそんな…!確かにちょっと太いかな?とは思ったけど…張り切っちゃったっ」

語尾にハートマークをつけて喋っているような女、猿飛あやめ。突如現れたこの忍の女に、新八さんはなんとも言えない顔をした。

「ああ、すいません。あの人はですね…」
「いえ、結構」
「っえ」

私は新八さんの言葉を遮って二人の元へ歩いた。神楽さんは興味がドーナツに全集中しているのか、こちらに見向きはしなかった。

「帰れこのアバズレが!!!!!!」

私はあやめの後頭部に突き刺さっているチュロスを引き抜きそのままチュロスで彼女の頭を叩く。すぱぁん、とハリセンのような心地の良い音がした。

「何するのよ名前!!」
「いやこっちのセリフ。今エピローグ。どう考えてもお前の出番は、ない。お帰りどうぞ」
「アナタちょっとふんぞり帰ってない?敬語もなくしちゃって、新しいキャラ付けのつもり?今更遅いわよ!」
「安心してよ。お前だけだから。ほんと、こんなことできるの、あやめだけだよ…」
「わー!!ちょっとあの人刀抜き始めたんだけど!!思ったよりトチ狂ってたんですけどォオオ!!」

部屋壊さないでくださいよ!!!と新八さんの声が聞こえた。その言葉を聞いて、私は渋々動きを止める。この女、今すぐ切り捨てて坂田さんの前から消したいが、部屋が壊れて困るのは万事屋の皆さんである。ふぅー、とため息をついた。

「えー………と、何?お前ら知り合いなわけ?」

静まった場に坂田さんの声が響いた。私とあやめを交互に見ては腑に落ちない顔をしている。

「知っているか知らないかで言えば、まぁ知ってますけど…いや知りたくなかったんですけど…」
「言っとくけど友達とかじゃないわよ。私と名前の関係性はそう、めくるめくる恋の好敵ムグっっ!!!」
「美味しい?」
「ん゛ーー!!んもごもぐ!!!」

チュロスを彼女の口に突っ込む。太いと言うのは本当らしく、少し苦しそうにしている。男子中学生が見たら勘違いしそうな図ではあったが、常に勘違いされそうな女である。今更何かを思うことはない。そのまま地面に叩きつけると、彼女は静まった。一時的に、ではあろうが。




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