この手紙を読んでいる頃に、君が見ている空はどのような空なのでしょうか。快晴であることを祈ります。

と、かしこまって手紙を書こうとしたけれど、私は君の横にずっといたから、文字で気持ちを伝える機会なんてなかったですね。なにをどう書けばいいのか、見当もつきません。君に伝えたいことは沢山あります。思い出の話だったり、私の話だったり、君の話だったり。それはきっと君が思っている以上に沢山のことです。便箋なんぞには収まるものではないでしょう。
ですから、簡潔に。今私が一番に思っていることを伝えようと思います。

君が憎いです。君を思うと身体の中心が自分のものじゃないように疼いて、どうにかなってしまいそうです。どうして、と君はその大きな目をきょとんとさせるのだと思います。君を憎いと思う理由はたくさんあります。

けれど、その理由はここでは書きません。知りたいと思うのならば、直接私のところに殴り込みにでもきてください。そんなおてんばなことはできないと言うのならば、君の好きな激辛せんべえでも持って来てください。あれは正直、私には堪えるものがあるのですから。

その時に、江戸で何があったかを教えてください。そーちゃんがどう成長しているかは、特に気になります。私も江戸にいつか行く時があったら、君と彼と私とで、お茶でも出来たらよいですね。もっとも、彼は私のことを覚えているかはわかりませんが。

とにかく、君のことが憎いです。殴りたいくらいです。けれど、病人の君を殴りなんてしたら大変なことになりそうなので、さっさと治して見せに来てください。そのときには、私も全部を話しましょう。そーちゃんによろしくお伝えください。

ミツバへ
名前より



畳の上で胡座を書いている沖田の手が掴んでいるものは、変哲もない白色の封筒だった。中には手紙が入っているのだろう。頭上に持ち上げて光を差し込ませて見てみれば、薄い紙が一枚か二枚入っていることがわかる。流石に内容までは読み取れない。沖田は姿勢を戻した。

「あれ、沖田隊長、それなんですか?」

背後から声がした。振り返ってみれば、同じ真選組である山崎が立っていた。彼の問いに答える必要性はなかった。けれどなんとなく、己の手の中にあるものの存在をないがしろにしたくないと思った。「手紙」とぶっきらぼうに沖田は答えた。

「え、隊長宛にですか」

山崎は驚いた顔をする。沖田が持っている封筒が、ビジネスに使われるような茶封筒であれば、彼が驚くことはなかっただろう。沖田は若い身ではあったが、その役職は真選組1番隊隊長と立派なものであった。何らかの書類が送られて来ることは珍しいことではなかった。しかし、今彼が持つ封筒は、個人によって送られるものだった。清潔感溢れる白い封筒は、もしやラブレターなのでは、と山崎は考えた。見目も良い沖田ならありうる、と。

「いんや、俺じゃねェよ」
「違うんですか?あ、隊長が出す側ってことですか?」
「俺ァ姉上以外に手紙なんて書かねェよ。もういい、無理して小せえ脳みそ動かすな、向こうでミントンしてろ。そして土方さんに怒られろ。そこを狙うから」
「そこを狙うってナニ?完全に俺を餌にするつもりですよね。完全に俺共々副長を殺ろうと思ってますよね」

顔を青くさせて山崎は言う。通りがかって話しかけただけでこの言い様だ。やはり無意味に隊長に話しかけるんじゃなかった、と後悔しながらその場から離れた。沖田はその様子をぼんやりと眺めてから、もう一度手紙に目を向けた。封筒には住所も宛先も何も書いていない。投函したところで処分されるのが目に見える。懐にしまおうとするには封筒は些か大きかった。少し考えて、綺麗に2つに折った。自分に宛てられていない手紙を折るのはどうかとも思ったが、くしゃくしゃになるよりはマシだ。

沖田は立ち上がって、外に出る。瞬間、肌に攻撃してくるような日差しが降り注いだ。ちらほらと見える人影の中には、日傘をさしている者も少なくなかった。「あちぃ」誰に言うわけでもなく、強いて言うなら空に向けて、恨めしく沖田は呟いた。





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