火花が散るような衝撃で、私は目が覚めた。その瞬間に頭が痛む。身体の節々にも傷があり、、特に肩からは出血の後が大量に見られた。身動きはとれない。柱に縄で身体をくくりつけられていた。拉致監禁されている、と気づくのはそう遅くなかった。刀もない。

「意外とお寝坊さんアルな」
「!か、神楽さん…!?」

声のした方向を見ると、そこには私と同じように柱にくくりつけられている神楽さんがいた。私だけでなく、彼女も同時に拉致監禁されてしまったらしい。あの戦闘のあと、彼女だけでも逃げ切れればよいと思っていたが、ことはそう上手くはいかなかったらしい。怪我はありませんか、と聞けば名前に比べればナ、と返ってきた。私はその返事に、少しだけ安堵した。

「本当に申し訳ないです、巻き込んでしまって…」
「最初に首突っ込んだのは私アル」

だから気にするな、と言わんばかりに彼女は私に笑顔を見せた。この状況におけるその気概に、私は感服せざるを得ない。私も笑顔を返した。神楽さんほど上手くは笑えていないとは思うが、だからといって絶望する気は毛頭ない。

「なんとかして脱出しましょう。じゃなきゃ坂田さんに顔向け出来ませんから」
「?名前、やっぱり銀ちゃんと知り合いアルか」
「やっぱり?」
「真選組が嫌なら銀ちゃん呼べって、言ってたから」

神楽さんは納得したように言った。だが彼女はそのあとすぐに苦虫を噛み潰したような顔をした。

「でも銀ちゃん、最近キゲン悪いネ。卵かけご飯に文句言う回数多くなってきたし、浴びるように苺牛乳飲んでるし、アレ絶対生理アル。この前女になってたし」
「うん…うん?うん…そっか」

私は頷きながら話を聞いていたのだが、後半部分に関してはまったく意味がわからなかった。生理アル、だけなら機嫌が悪いことの比喩表現だと理解できるのだが、女になっていた、とは…?私は理解することを諦めて、適当に返事を返した。
坂田さん、機嫌が悪かったのか。
そう思って、私はファミレスでの坂田さんを思い出した。確かに、以前出会ったときよりは無愛想だったような気はした、が、彼はいつも気だるそうな空気を纏っているので、それがデフォルとだと言われれば私は納得してしまう。そもそも彼が怒り気味だったのは、私の態度のせいであるだろうし。そう考えると、無意識にため息がでた。神楽ちゃんはそんなため息を吐く私を、この状況を憂いているのだと思ったのか、大丈夫、と言った。

「前にもこんなようなことあったネ。私と女の子とクソサド、なんやかんやでなんとかなったし、定春が助け呼んでくれるアル。定春賢い子」
「前にもこんなようなことがあったんですか!どういうことですか、ホント」
「31巻とか見るといいアル、あと今ならアニメ配信もされてるアル。劇場版1月公開、ムビチケ必須アルよ!皆見てくれよな!」
「誰?神楽さんには誰が見えてるの!?何があるの!?アニメとか劇場場とか何!?この世界線はアニメだったの!?」
「とりあえずポジション的に名前がうんこしたら出られると思う」
「ポジション的に!?ポジションで脱糞しなきゃなんないですか私は!?この真っ白な制服で!?カレーうどん食べるのすら日々我慢してるのに!?」

神楽さんの言うことが全く理解できない。やはり私などでは、万事屋の一員である人間の言う言葉など遠いものに感じてしまうということなのだろうか。アニメってなんだ、なんで私は脱糞しなきゃならないのか。そして前回彼女と共に捕まったであろうクソサド(女の子が脱糞するとは考えたくない)は脱糞したのか。人間としてのプライドはないのか。今後の人生で絶対に関わりたくないと私は思った。

「よォ、目覚めたか」

考えを悶々と巡らせていると、私たちを連れ去ったであろう男がやってきた。しっかりと武装している。その上、その男は、あの道で私に声をかけてきた司令塔のような役割を担っていた男であった。

「いい姿じゃねェか、お仲間にも見せてやろう」

男は下品な笑いを浮かべると、カシャと携帯のカメラで私の姿を撮った。私はその音に顔を歪めるが、それ以上に彼の持つ携帯に意識が無く。白いその携帯は、私の携帯であった。マスタードーナツのマスコットキャラクターのキーホルダーが揺れるのが見える。

「恨むなら自分が見廻組なことを恨むんだな」
「…警察ってモンはどいつもこいつも恨まればっかアルな。それとも名前このオッサンの漫画の帯でも折ったアルか」
「確かに人によっては恨まれそうではあるけれども。もう今は電子書籍の時代ですよ」

えー、でも銀ちゃん毎週ジャンプ買ってるアルよ。紙面の良さがあるんですかねえ、捨てるのめんどくさそう。そーそー。世間話をするように私たちは話す。その焦りもしていない様子に男は機嫌を悪くしたのか。携帯を強く握りしめた。私の携帯に知らんおっさんの手垢がつく…。と遠い目で私はその姿を見つめた。

「舐めやがって!…まぁいい、これから見廻組に連絡をする。お前の携帯を使えば向こうもデマじゃねえって信じるだろうよ!お前を人質にやつらをおびき寄せる!」

荒い動きで携帯を弄っている。一体見廻組になんの恨みがあるのだろうか、と疑問に思うが、あの局長にあの副長なので、人を殺している数で言えば数えきれない。冷徹な人で恩情もないような人たちであるから、恨みをどこからか買っていてもおかしくはない。誰かが後処理に失敗したのだろうと思った。随分大掛かりな復讐劇だと私はまた、ため息を吐いた。見廻組をおびき寄せたとしてもそのまま制圧されてしまうだけでは、とも、そもそも私1人のために局長が組を上げて対応するのだろうか、とも思った。
頼ってばかりもいられない。やはりなんとか自力で脱出する方法を考えなければならない。ちらりと神楽ちゃんを見ると、彼女は大きな瞳で私の携帯のキーホルダーを見ていた。いいなーアレ、と小さな声が聞こえた。無事脱出できたら、彼女にドーナツと一緒にプレゼントしようと思った。





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