「あの、よかったらお茶でもどうですか?」
「私たち、暇しててぇ」

と、嬉しい言葉を私に向けて言ったのは、それはそれは可愛らしい女の子たちだった。丈の短い花柄の着物を着こなし、少し明るい髪の毛をくるくると上品に巻いている。今どきのおしゃれな女の子に間違いはない。

しかしここで一つの問題が生じる。
私も女である。この女の子たちほど可愛らしい風貌ではないものの、それなりに女として二十数年を生きてきた。故に、普通に生きていて女の子に囲まれ、その上お茶に誘われるなんていうイベントは発生するはずないのだ。

ではなぜ、こんな状態になっているのか。

「あ、あぁ〜いや、ごめんね、嬉しいんだけど、わた、僕…用事が」

それはひとえに今の私が男だからである。
髪の毛は短く、顔には丸みがない。身長も女の子からすれば非常に高く、来ている着物も男性用。なにより、あるはずのものがなくてないはずのものがある。私の精神こそ女であるものの、身体は確実に男のものになっているのである。

時を遡る。
某日、いつもの様にかぶき町をふらふらと歩いていると、突如空が光り、気づいたら男になっていた。それも私だけでなく、光を浴びたかぶき町にいた人間のすべてである。男女逆転というあり得ない状況に陥り、パニックになった私の元に現れたのは、同じく性転換した真選組の面々であった。日々町の警察としてお世話になっていた彼らは見事に女になっていた。「まん選組」と名を変え活動を続ける彼らを見たときはこれが地獄かとも思ったが、その中でも更に目を引いたのが真選組副長、土方十四郎の存在である。何を隠そう、彼は私の想い人である。気持ちこそ伝えられていないものの、私は彼を常に尊敬しているし、だからこそこの状況にもいつものように凛と佇んでいると信じていたのである。

「お、名字、お前焼肉好きだったよな。待ってな、今焼けっから」
「オィィイ!!誰がポークだ!!!」
「いみがわからない」

しかし、私は頭を抱えた。あの真選組鬼の副長が、見るも無残な豚になっていたのである。正確には、大層ふくよかな女性になっていたのである。日々異常に摂取しているマヨネーズが原因、と羨むほどの美人になっていた沖田さんが言っていた。いや、それにしても、これは。

「おかしい…土方さんはクールビューティーSっ気でも恋人の前では可愛らしい一面も見せるツンデレスレンダー美少女のはずでは!!?!」
「マヨネーズの前では全て無に帰したってことでさァ、南無三」

沖田さんは手を合わせた。火の上にくくりつけられている土方さんは悲鳴をあげている。うん、南無三。

その後、性転換の原因となるデコボッコ教という宗教団体を壊滅させた。再びかぶき町は光に包まれ、性転換が性転換することで人々の性別は元に戻った。しかし、私や真選組、それと他数人は地下め宗教団体と敵対していたため、その光を浴びることなく、変わった性別のままで過ごすことを余儀なくされたのである。



「キャバクラポリスって何?なんなんですか?土方さんどうしてそんなんになっちゃったんですか痩せてください痩せろマヨネーズやめろ!!」
「ふざけんな只でさえこんな身体でストレス溜まってるってのに!俺から生き甲斐を取り上げんな!」
「だからってキャバクラポリスって!キャバクラポリスってなにー!」

深夜かぶき町。ネオンによって煌めく店の数々。その中の一つの店前で、私はみっともなく騒ぎ立てる。原因は勿論土方十四郎。今はX子と呼ばれているらしい。この男(今は女)を含めた真選組(今はまん選組)の面々が、あろうことか警察の職務を投げ出しキャバクラとして働いているのである。尤も、客引きとして立っているX子さんを見ただけで大抵の客は文句を言って帰っていくのだが。

「そんなんやめてはやく元に戻れる方法探してくださいよー!」
「俺が知りてぇよそんなん!こんなふざけた職場いつまでもいられねぇよ返せ俺の身体を!」
「まぁまぁ…二人とも」

言い合いになる私達を宥めたのは、真選組の監察であり、私にとっては絡みやすいと思える山崎さんだった。勿論女。そんなに変わってないからわかりやすい。

「きっとなんとかなりますよ。それまでは名字さんも楽しむくらいの気持ちでいればいいんじゃないですか」
「男の人の楽しみって何?棒を擦れることですか?そんなとこでボーナスステージ突入されても困るんですけど」
「うんいやそうじゃなくてね…。名字さん折角男前になってるんだし。ホント、羨ましいくらいだよ」

山崎さんはそう言って私の姿を眺める。いつもは私が見上げているのに、今は彼が私を見下ろしている。まぁ、確かに今の私は高身長のイケメンの男と言えるかもしれない。女であった頃は美人と言えるほどではなかった姿が、何故か男の姿になった途端にビジュアルの出来が上がった。なんでだ。ほんとに。その姿は元の姿の土方十四郎にも引けを取らないかもしれない。実際、女の子たちに声をかけられることも多い。

「複雑だ…。こんなん貰っても私は困りますよ」

私は懐から数十枚の紙を取り出す。名刺だ。それも、かぶき町のキャバクラ嬢のである。

「ここまで歩くだけでお兄さんお兄さん、名刺だけでも、って」
「うわぁ、何枚あるんだこれ…」
「お前、他のキャバクラに行きやがったのか…」
「他のってなに?なんでキャバクラに馴染んでるんですか?なんで他店にジェラシー感じてるんですか?」

一枚、二枚と数える山崎さんの横で、X子さんは私を睨みつける。男の姿であれば萎縮していたかもしれないが、今の姿では豚が睨んでいるようにしか見えない。腰の拳銃がリアルなのが怖いところではあるが。
キャバクラなんていきませんけど、と私が言うと彼は少し満足そうだった。ますます意味がわからなくて、とうとう脳みそも肉になってしまったのかとすら思ってしまう。私の思いとしては、さっさとキャバクラなどやめてもとに戻る方法を探してほしいのだ。こんなキャバクラ、ゲテモノ揃いな上に元男というとんでもない調味料付きだ。儲けも出るはずない。

「悪いですけど、X子さんを指名とかありえないでしょうし。早く元に戻りましょうよぉ」
「…いや、実はそうでもないんだけどね」
「は?」
「こう…B専っていうのかな。副長、アレでついちゃったんだよ。上客ってやつがさ」
「はぁー!!??!?!」

そう思って私は少し吐き捨てるように言ったのだが、山崎さんから返ってきた言葉は予想街のものだった。このX子さんに、上客?聞くところによると前髪が長い忍者の風貌をしている男が、よくきてはX子さんを指名するのだという。X子さんを見れば大きくため息を吐いていて、その様子から真実なのだということが伺える。

「そんなー!X子さん、なにやってんの何されてるんですか?!ナニですか?お金払われてあんなことやそんなこと、出荷状態にされてあんなとこまで解剖されてるんですか?!」
「されてねェェェ!!お前の妄想も大概にしろ!!!つか出荷とか解剖とか何だ!!誰が豚だ!!」
「で、でもキャバクラですよねいやらしいこともあるでしょそんな、X子さんが知らないオッサンに嬲られるなんて…お触りとか、アフターとか、完全に出荷場連行されてんじゃん」
「出荷場てなんだ、ホテルか?ホテルのこと言ってんのか?」
「……………X子さん!!!!」

彼の言葉も聞かず、今や低い身長に視線を合わせるために私は屈む。財布を取り出して、中から万札をあるだけ引き抜く。そしてそれを私はX子さんの手に握らせる。X子さんの手はあったかくてむにむにしてた。X子さんや山崎さんは何をしているのか、という驚愕の目で私を見つめていた。そんな目線もお構いなしに私は告げる。

「お金ならいくらでも払います」
「だから、もう…他の男になんて買われないでください」
「あなたの上客は、ここに一人にしてくれませんか」

想い人が知らんオッサンに酒をついであろうことかあんなことやこんなこと、いやらしい目で見られることが耐えられなかった。キャバクラ嬢だというのなら、金だ。金を払って私はX子さんを永久指名してみせる。私はその気持ちを誠心誠意X子さんに伝えたのである。

「X子さんが他の男となんて、許せないです」
「………、名字、………」
「なにこれ、名字さんがとんでもない男気イケメンに見えるんだけど。実写なら新田真〇佑なんだけど。副長が雌豚になっちゃうんだけど」



後日。
性転換の騒動が解決した後。
いつものようにスナックすまいるで働く私に元のイケメンな土方さんが現れ、「上客は一人でいいんだろ」と、私があげたはずのお札を捩じ込みはじめ騒動になったのだが、それはまた別の話。



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