「旦那とどんな関係で?」
「別に」
「かぶき町で何してたんで?」
「特に」
「もう◯◯◯済ませてます?」
「済ませてません」
「実はこの前、旦那と高天原でホストやったんですが」
「坂田さんと高天原でホスト!?!?ホスト!?!?坂田さんが!?!?何で!?!写真とかないんですか!?!?」
「ほぉー……」
「っは……!」

その時の沖田さんの顔には、「いいネタを見つけた」と、ありありと書かれていた。
道場で一通り土方さんに攻撃をしたあと、私は沖田さんにファミレスに連れ去られた。黒と白の制服が対峙する様はシンメトリーのようである。というか今、普通に仕事のお時間なんですけど。土方さんも「オイ待て!」とすごい剣幕だったんですけど。本当に、目の前で水を飲むこの男はメンタルが強いというか、風のような男だ。

「いや何、俺も旦那には世話になっててねェ。まさか名字さんと旦那が一発デキてたとは」
「だからデキてないです。一発ってなんですか。あなたの頭に一発銃弾打ち込むってことですかそうですか」
「おお、らしくなってきやがった」

彼は遊ぶようにグラスを揺らす。カラカラ、と氷がぶつかる音が涼しげに鳴る。その顔はやはり意地悪な表情で、私は思わず攻撃的なことを口走る。ついでに拳銃も取り出す。怒られるかとも思ったが、彼は寧ろ私の言い草が気に入ったようだった。

「前会った時はもっと生きが良かったんでね。屯所に来たときに随分干からびてるから、どうしたモンかと思ったんでさァ」
「ひ、干からびて…」
「天下の見廻組様も恋には勝てねェってか」
「……違いますから、ほんとに」

誤魔化すように水を飲む。グランドメニューを開いて、意味もなく眺める。ぺらぺらと捲れば、季節限定パフェの文字が目に入る。今は桃らしい。艶やかな果実が大きく存在を誇示していて、真っ白な生クリームが甘そうだ。さっきまで色々否定していたが、やはりどうしても坂田さんの存在が思い起こされる。きっと美味しそうに食べるんだろうなぁ。

「坂田さんとは、少しだけ、お昼を一緒にしたくらいです。それにあの人、私以外にもたくさんの女の人と関わりはあるでしょう」

猿飛さんとか。とは気に食わなかったので言わなかった。それに、本当に坂田さんはコミュニティが広い人だ。私以外にも老若男女構わず人との交流があるはずだ。私が彼と2人で歩いていたからと言って、別に騒がれるようなことはない。自分で考えていて悲しくなってくるが、それ以上に結局坂田さんのことを引きずっている自分に泣きたくなる。

「まァ、旦那はああ見えてやり手ですからねィ」

沖田さんはそう言うと、すいませぇんと店員を呼ぶ。早々に来た店員に注文を始める。ランチセットにポテトにドリンクバー、あとこの季節のパフェ、食前で。淡々と述べた後に私を見て、お前はどうするんだと目で訴えてくる。

「……はぁ。ランチセットにコーヒーで。あ、ミルクと砂糖はいらないです」
「何でィ。甘いの好きじゃねェのかよ」
「好きじゃないです、パフェとか食べられませんよ、私」
「ふーん。ま、いいや。ゴチでーす」
「はぁ?誰も奢るとか言ってませんけど」
「いいだろ。俺ら芋侍と違ってエリート様は高給取りなんだから」
「甘えないでください」
「旦那には奢ってるのに?」
「な……!」

本当に、この男は。人が触れられたくない部分に構わず触れてくるというか、突っ込んでくるというか。思わず身を乗り出した私に、心なくまぁまぁ、と宥めてくる。意地が悪い。いちいち反応していてはキリがないとはわかっているのだが、私の今までにない分野の話に思わず反応してしまうのだ。

「やっぱ奢りかよ。まー旦那甲斐性ねェしな」
「…別に、全部ってわけじゃないですし。今は関係ないですよね」

私はせめてもの抵抗として沖田さんを睨む。彼にとっては猫に睨まれるような感覚だろうが。沖田さんはおーこわ、と思ってもないことを言って、席を立つ。行く先はドリンクバーのようだった。グラスに氷を入れている。

私はため息を吐く。はぁ、と。幸せが逃げるだとかいうことは,考えるまでもなかった。そもそも今の私に幸せなどというものはないのだ。ソファーに身体を預けて、脱力する。なんで沖田さんと2人でファミレスに来て、奢らされるような状況になっているのか。私は上着を脱いで、水を一口飲む。ファミレスの店内はお昼時ということもあり、様々な声が聞こえる。店員は忙しなく動いている。店内をぼうっと眺めていると、からんからん、とまた客が来店する音が聞こえた。

「いらっしゃいませー!」
「あー、先に沖田で入ってるはずなんですけどォ」
「ああ、それでしたら…」

沖田さんがドリンクを注ぎ終わったらしく、設置してある棚からストローを取ってグラスに差し込む。あれはなんだ、オレンジジュースかな。そんなことを考えていると、彼がこちらの席に戻ってくるのが見えた。片手でグラスを持ちながら歩く彼は、私の席を見て少し目を見開いた。その反応に、私は自分が何か不自然なことをしたのかと思ったが、上着を脱いだくらいだ。まあ、沖田さんのやることだから、意味などないのかもしれない。そう結論付けて私はまたため息を吐いた。

「あァ、旦那、遅ェですよ」
「いや、突然呼ばれて来たのコッチな。パフェ食えるっていうから来たけど何?面倒ごとなら一個じゃ足りねーぞ」

そして、私は吐いた息を上手く吸うことが出来ずに、大いに噎せた。

「ッゲほガヴァ!ッ、ごほ!う、ンンっけほ!!」

銀髪。気怠そうに立っているその男は、まさしく先ほどの話の渦中の人物で、私が今最も会いたくない人物であった。

「は?何でお前が…」
「っけほ、さ、さかたさん…なんで、いや、沖田さん、あんた」
「さァさ、旦那はこっち座って。俺は名前さんの横なんで」

沖田さんは意気揚々と坂田さんに席を薦めて、自分も席に座る。しかも、私の真横に。

こいつ、退路を断ちやがった…!

本気か、この男。私は驚愕の目で見つめることしかできない。坂田さんをまっすぐに見ることはできなかったが、少しすると正面に圧を感じた。おそらく、坂田さんが座っている。

「いやぁ、まさか旦那と名前さんが知り合いだったなんてなァ。世間は狭えや」

し、白々しい…!!急に名前で呼び始めて!!こいつ、こいつー!!
土方さんが頭を悩ませる理由を理解した。してしまった。ずごごー、と音を立てながらジュースを飲む沖田さんを見れば、彼も私を見ていたようで、視線がぶつかり合う。

「………ッフ」

その表情はもはや悪魔の微笑みのようで、私は本能的に思ってしまう。

こいつ、真性のドSじゃねーか。




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