総悟の始末書、という名の書類は本当に多かった。器物破損、備品の無許可使用などが主だった。端正な顔に似合わず彼も豪快な人らしい。それか、土方さんに嫌がらせをしたくてやっているかという可能性もある。私は何枚か確認したあとに、土方さんに話しかける。

「土方さん」
「あ?」
「ここまで数が多いなら、もう備品については上に直接掛け合った方がいいかと。バズーカの銃弾の使用許可とか、範囲を緩くできれば一々報告書も始末書もいらなくなるので」
「そんなもんが降りるかよ。ただでさえ俺ら真選組は目ェ付けられてんだ」
「土方さんは真選組ですけど、私は見廻組ですよ。その手の方によくしてくれる人が何人かいます。私が掛け合えば、恐らくは何とかなります」
「……マジか?」
「マジです。あと器物破損、住居破壊については一部を外部にお願いできるものはそうした方がいいかと。数を減らすことが出来れば土方さんの負担も減ります」
「…」
「これについても、うちの副長がよく何やら壊した際にお世話になってる所があるので、紹介しますよ」
「お前…」
「あとこの上への報告書なんですけど、ここの部署は内容をいやらしいくらい確認するので、もっと丁寧に書いたほうがいいです。逆にこっちは名前と印だけしておけば問題はないです。仕分けておいたので確認してください」
「フゥー…」

名字、悪かったな。マヨネーズをやろう。

土方さんはがしりと私の肩を掴んでそう言った。

「え?!?!何で?!?さっき認めてない的なこと言いましたよね!?!」
「お前はゴミクズ何かじゃねぇ、もっと誇りを持て、プライドを持て!!高飛車になれ!!」
「さっきと言ってることが違う!!?!」
「一生俺の側に居てくれ」
「プロポーズ!!?!!?」

訳のわからないことを言う土方さんさんに思わず大声が出て、お腹の傷が少し疼いた。土方さんは自分の言ったことに気づいたのか、少しして顔を赤くして弁解をしている。彼によると、真選組には事務仕事などができる人間がごく少数で、私のように淡々とこなせるような人間などそういないらしい。私は寧ろ、見廻組にいた頃も雑務をメインに仕事をしていたようなものなので、特に己のスキルに何かを感じていたわけではなかった。しかし、土方さんのこの感銘を受けている姿を見ると、ちょっとは役に立てているのかと嬉しくなる。

「アララ、土方さんってば手が早ェや」

すると、先程破壊された襖からひょっこりと沖田さんが姿を現す。やはり彼は、己の手によって生み出された書類の数々には興味などないようで、見ることすらしない。彼は私に近寄り、立ったまま私に話しかける。

「名字さん、俺と一発〇〇〇でもどうですかィ」
「何言ってんのお前ェェエ!!!」
「何妄想してんでィ土方コノヤロー。俺は手合わせをお願いしてるだけですぜィ。14歳のあの頃みてぇに動揺しちゃってまァ」
「いや完全に〇〇〇って言ったよね?!手合わせの動きじゃないよね?!」

沖田さんは人差し指と親指でわっかを作り、反対側の人差し指でそのわっかを通していた。明らかなハンドサインだったが、彼の中ではそのハンドサインは手合わせという意味合いらしい。一番隊隊長である沖田さんがなぜ私を誘うのかはわからなかったが、私の実力を知りたいという好奇心だろうと予想をつける。思えば先の一件でお腹を怪我してからロクに身体を動かしていない。未だ完治した訳ではないが、大きな動きをしなければ問題はないはずだ。私は立ち上がる。

「わかりました。沖田さん、是非〇〇〇しましょう」
「いや〇〇〇じゃねェエエエ!!!!」



数十分後、近藤さんや土方さんが見守る中、私は、道場の床に無様にも倒れ込んでいた。息も絶え絶えで、何よりお腹がひどく傷む。大きく動かなければ、などという考えは甘かったようだ。この沖田総悟相手に、手を抜けるほど私は器用ではなかった。

「フゥ…思ったよりは、中々やりますねィ。ま、俺はアンタの上司にも勝ってるんで」
「はは…ウチの副長にはそれ、言わないでおきますよ」
「つまんねぇの。ま、中々やるってのは本当ですぜ。ただ…」

いつまでも倒れているわけにもいかないと、私は身体を起こす。やはり身体に負担をかけたようで、色々と痛む。そんな私の状態を見破るように、沖田さんは言葉を続ける。

「腹でも怪我してるんで?庇ってただろ」

その言葉に、びく、と肩が震える。弱点がバレていたことに、負けることよりも情けなさを感じる。意識していた訳ではないが、本能的に身体が負傷部分を庇う動きをしていたのだろう。私はお腹を擦りながら曖昧に笑う。

「この前ので?土方さんもひでェことしやがる」
「は?俺じゃねえよ。流石にあそこで女斬ったなら覚えてる」
「あり?でも名字さん屋上に居たんでしょ。攘夷志士に負けるほどの腕ではねェし、そもそも直ぐに降伏させられたンだろ」

的が外れたと言わんばかりの顔で沖田さんは私を見る。彼はあの屋上の煙の中、他の見廻組隊士同様土方さんによって斬られたと思っていたらしい。攘夷志士に斬られた訳ではないと買ってくれたことはありがたがったが、いっそのことそうしてくれたほうがありがたかった。

「あァ、じゃあ旦那か」

沖田さんは軽く手を叩く。万事屋が?と近藤さんは訝しげに言った。

旦那、万事屋。

彼らが言うその男は、つまりは坂田銀時だ。
熱を帯びていた身体が、一瞬で冷える。冷水をぶちまけられたようだ。そう言えば、初めて沖田さんを合ったとき、誤認逮捕された友人である「旦那」を迎えに来たと彼は言っていた。今思えば、その「旦那」とは坂田さんの事なのだ。それに、あの屋上で坂田さんと土方さんが対峙したときも、初対面ではない様子だったし、その後真選組によって彼は捕縛されたと言っていた。
真選組と坂田さんは、大いに関わりがある。
とんでもないところに来てしまったと今更ながらに思った。忘れよう忘れようと思っていた銀髪が頭にチラつく。引いてきたはずのお腹の痛みが訴えるように痛む。傷は開いてないはずなのに。

「い、いやこれは別に…」
「ッチ、万事屋か…。ん……万事屋?」

竹刀を握りしめながら視線を逸らす。私は適当に言い訳をしようと口を開いたが、土方さんが私に被せるように喋る。彼は少し黙ったあとに、煙を吐いた。

「万事屋………。そうだ。お前、この前万事屋とかぶき町を歩いてなかったか?」

確か、デートとか言って。


私はすっかり忘れていた。そういえば、いつかの日に坂田さんといた所を、この人に見られていたのだ。しかもその時、坂田さんは私を庇ってデートと言っていたのだ。
真選組と坂田さんは関わりがある。私が真選組に居ることが彼に伝わるのも時間の問題かもしれない。彼と対峙しなければならない瞬間が来てしまうかもしれない。心臓の鼓動が早まる。

「こうなったら、ひ、土方さんを殺すしか…!!」
「は?オイ、何でだァァ!!!」
「死ね土方ァァアア!!!」
「お前もかァアア!!!」

沖田さんが大きく竹刀を振りかぶって土方さんを攻撃する。すんでの所で避けたようで、咥えていた煙草だけの犠牲で済んだようだった。煙が空気に溶けていくのを、私はただ見ることしかできなかった。



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