結果。
私は真選組でも副長補佐として過ごすことになった。あの言い合いの中、沖田さんがにやりと笑いながら言ったのだ。

「あァ、土方さん、怖いんですかィ」
「めちゃくちゃにしてやられた佐々木殿の部下となりゃ、そりゃそうか」
「またいつ怪我させられるかわかったモンじゃねェですもんね」
「土方さん、女一匹に情けねェや」

純度が高い煽りに、土方さんはまんまと激高した。私は土方さんをクールで寡黙な男だと思っていたが、考えを改めた。割と流されやすい人らしい。その後、やってやるよ!と豪語した土方さんによって場は終結。名字名前は一時的に真選組副長補佐としての任を全うすることになったのだ。

「これは」
「総悟の始末書」
「これは」
「総悟の始末書」

副長室。机と膨大な量の書類を挟んで、土方さんと私は対峙する。上着を脱いで煙草を吸う土方さんには、苦労者の貫禄を感じた。先程から書類の概要を聞けばほとんどが「総悟の始末書」である。どうやら彼は、とんでもない部下を抱えて苦労しているらしい。私は最早何も聞くまいと、無言で書類を仕分ける。とんとん、ぺらぺら、と紙の音だけが響く。

その沈黙が破られるように、襖が勢い良く開く。そこには、お茶を2つ持った瞳がきれいなふくよかな男が立っていた。

「副長ォ!言われた通りお茶2つっス!あ、あと煙草もー」

ポケットから煙草を取り出した男、佐々木鉄之助は私を見て言葉を止める。正確には、見廻組の制服を見て、だろうが。彼はわかりやすく動揺していて、先程の勢いを消して机にお茶を置く。

「名字名前です」
「え…」
「見廻組より派遣されました。一時的に真選組の副長補佐として任を受けています。ですが、真選組としては貴方の方が先輩。何卒、ご指導を頂ければと思います。…鉄之助さん」

私は鉄之助さんと向かい合って、彼に握手を求める。淡々と挨拶をして私に驚いるようで、彼はすぐには手を出さなかった。しかし、少しして、覚悟を決めたようにハイ!と大きな声では返事をした。握られた手も力が篭っていた。竹刀を沢山握ったであろう豆の出来た手に、私は感心する他なかった。

「じ、自分、佐々木鉄之助っス!!副長のことなら何でも聞いてください!!副長の煙草はマヨボロ!!しかし煙草は肺気腫を悪化させる危険性を高める上に周囲にも悪影響を及ぼしさらにはインポテン」
「うるせえェェエ!!さっさと戻れ!!!」

土方さんが鉄之助さんを全力で蹴り飛ばす。ぶっ飛ばされた鉄之助は襖を巻き込んで外に放り投げ出される。先程買いに行かせた煙草の封をすぐに開け、ライターで火をつける。さっきも吸ってたのになあ。土方さんは何事もなかったかのようにまた書類の前に座った。

「…何なんだお前は」
「…え?」
「見廻組ってのはもっと高飛車な、プライドだけは一丁前の野郎共じゃねーのか。お前は"らしく"ねェ」
「…」
「俺はまだお前を認めてねェ。見廻組だろうが何だろうが何かあればすぐに斬る。覚悟しとくんだな」
「…はぁ」
「そういう所だよ。反論もしねェで。お前にはプライドがねえのかよ」

相変わらず土方さんは私を見定めるように見る。見廻組に対するイメージと私自身が解離していると感じた上の発言だったらしい。私は少し考えて、書類を仕分けていた手を止める。

「…まぁ、土方さんが仰ることを否定する気はないです。見廻組がプライド高いってことも、私がらしくないって言うのも…。私は、中途半端ですから」
「中途半端?」
「見廻組はアレで、普通にいいとこたくさんありますよ。確かに驕ってるとこもあるかもですが…皆正義のために日々奮闘してます。…けど私は、斬らなきゃいけないものを、私欲にまみれて斬れなかったので」
「…」
「副長補佐という軽くない役職でありながら、情けない話です」

まぁ、大した話ではないです。と私は付け加えて、また書類を整理する。土方さんは考え込むように手を止めていたが、またすぐに書類と向き合った。




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