目が覚めた瞬間に、痛みが走った。

「おはようございます名字さん。ああ、身体はそのままで」

声がした方向に目線だけ向けると、そこにはいつものように携帯を弄る局長がいた。私が眠っていたベッドのすぐそばの丸椅子に悠々と座っている。

「………えっと。私は………」
「屋上で死にかけていたところを救助されました。傷が大変深かったようで、危ないところだったんですよ」
「ああ…」

私は昨晩のことを思い出した。突如現れた坂田さんのことを。彼を斬ろうとして、けど出来なくて。それどころか彼を庇い、腹を斬られたのだ。ロクに受け身もとれなかったせいか、傷は想像より深く、跡が残るかもしれないと局長は告げた。

「知恵空党の浪士は投降、後に見廻組が捕縛。真選組との一件は、今回は痛み分けということになりました」
「そうですか…申し訳ありません、何の成果も、出せずに…私は、」
「いえいえ。今回は流石にイレギュラーが過ぎました。あの白夜叉と鬼の副長相手では、いかに貴方と言えど分が悪い」
「!…白夜叉」
「ええ。白夜叉だったらしいですよ、彼。その傷も、坂田銀時によるものですかね。名字さん」
「…」

局長が私を見る。見透かした目だ。計画的で、冷徹で、野心家な目だ。その目に見つめられることを光栄に思っていたはずなのに、今はとても居心地が悪い。私は目を合わせることが出来なかった。

「局長。…知っていたんですか」

私が坂田さんと関わりがあることを。私が坂田を想っていることを。彼に関わってから、見廻組としての私の剣が鈍ってしまったことを。

「なんの話ですか、名字さん」

局長は依然として私を見つめる。

「部下のプライベートにまで介入しませんよ、私は」

それじゃあ、お大事に。仕事については、また後日連絡しますので。彼はそう言うと、席を立ちそのまま病室から出ていった。ちら、とすぐ側の備え付けの机を見れば、マスタードーナツの箱があった。手を伸ばして中身を見れば、セイボリーパイがいくつか入っていた。

「見限られた訳では、ないのか…」

柔らかな布団に、全体重を預ける。お腹のあたりを擦ると、丁寧に包帯が巻かれていた。血が滲んでいる訳ではなかったけれど、確かに内蔵を抉るような痛みはあって、自分が斬られたことを改めて実感した。

坂田さんは、大丈夫だったかな。

白い天井を眺める。きっと彼のことだから、なんだかんだと無事に生きているはずだ。私が庇う必要だって、無かったかもしれない。けれど、あの瞬間、身体が勝手に動いていたのだ。坂田さんに刀を向けておいて、彼を護ろうとしたのだ。

結局私は、女としても侍としても、中途半端な存在だったのだ。

もう坂田さんと会うことないかもしれない。私はもうかぶき町に行かないし、彼だって私に会いたくないだろう。元とは言えど攘夷志士、それも見廻組となど、関わりたいとは思わないはずだ。何より、ずっと自分を騙していた人間相手。

きっと彼は、もう私のことを嫌っている。





top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -