「!名字補佐!」
「…ご苦労。首尾はどうなってる?」
「事前に潜入していた者より誘導を受け、皆配置についています。いつでも突撃できます」
「そう。…その潜入捜査者はどうした?」
「また攘夷浪士の元に、戻りました」

局長の指令通り、私は奇襲部隊と合流した。
屋上の死角に隠れている部隊は、これから攘夷浪士を殲滅するため、直、行動に移る。
殲滅対象は屋上に存在する全ての人間。

「…。何で、元に戻る真似なんか…」

隊士たちを誘導した潜入捜査者に、私は馬鹿な真似をするなと言いたかった。仕事を終えたあと、そのままビルから脱出して、下の見廻組と合流すれば、これ以上巻き込まれることなく望みの報酬を手に入れることができたのに。局長直々に始末される可能性もあるけれど、それくらいなら口添えできたかもしれないのに。これ以上、攘夷浪士と身を共にするのならば、斬らなければならないのは明白だ。刀を持ってその場に立っているだけで、彼は犯罪者の烙印を押されてしまう。
攘夷浪士として、見廻組に始末される。

未来ある若者だけでなく、罪なき一般人までも見殺しにするらしい、私は。

「…!」
「…ッ!名字補佐、局長が!」

ーガォオオォオオン!!!
ビルが叫ぶような、けたたましい音が地上から聞こえた。
目を向ければ、遠くはあるものの、地上の様子が見える。

「!局長…!?」

局長がビルに刺されている。
土方十四郎が、局長を刺している。
肩口には鋭く刀が突き刺さっており、その血はまるで赤い花のように局長の胸を飾っている。土方十四郎も無傷ではない。私が屋上に来る間に、死闘を繰り広げていたことが推測できる。

事態はクライマックスだ。
私の後ろに控える隊士たちが刀に手をかける。

「!ちょっと、待て…まだ、」

私が制止の声をかけようが、隊士たちの目は変わらない。殲滅の言葉のみを掲げて今にも突入せんとする勢いだ。

「くそ、せめて、顔だけでも知っていれば…」

どうしてあの時、局長にもっと問い詰めなかったのだろう。顔だけでも知っておけば、早々に保護くらいは出来たかもしれないのに。私の心が後悔の2文字で埋まる。

「名字補佐、もう!突入します!」
「!おい!待て…ッ!」

一人が刀を抜いて、足を踏み出す。その行動が合図に、次々と隊士たちが屋上に乗り込んでゆく。私1人では止められない域にまで、場がヒートアップしすぎている。

見廻組の殲滅任務が、始まってしまった。

「やれェェェェェェ!!!一人残らず殲滅せよォォ!」
「くそ!」

刀を抜いて屋上に乗り込む。向かって来る攘夷浪士をひたすらに斬る。斬りながら、私は潜入捜査者を探す。隊士たちは最早、白以外は必ず斬る。彼らよりも先に見つけて、どさくさに紛れて避難させるしか、彼を助ける方法はない。

局長ならそんなことはしない。
けれど、私の想い人ならそうするんじゃないかと、そう思った。

「チッチキショォォォ!!こうなったらてめーも道連れだァァ!!」

だが私の思惑など知らずに、隊士たちは進む。
知恵空党のリーダーが、雄叫びをあげながら佐々木鉄之助を引き寄せる。追い詰められた彼らは群をなして一箇所に留まっており、四面楚歌の状態だ。

もう、彼らに後はない。

「うっ…うおわァァァァ!!!」
「鉄ゥぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「…ッ!」

数人の隊士が陣を組むように一斉に襲いかかる。黒ひげ危機一髪を連想させる圧倒的な攻撃に、私はまた唇を噛んだ。あのリーダーと佐々木鉄之助に、避けられるはずもない。そしてもう一人の彼も、きっと一緒くたに殺された。局長の思惑通り、佐々木家の子息は真選組の不始末によって殺され、潜入捜査者など、「元から存在しない」ことになったのだ。

「…」

視界の端に黒が映る。

土方十四郎だった。
佐々木鉄之助を助けに、そのボロボロの身体に鞭を打って、ここまで駆け上がってきたのだろう。けれど彼は間に合わなかった。ヒーローは遅れるものだと言うけれど、彼は遅れすぎたのだ。

なんでもっと早く来なかったんだ、佐々木鉄之助を助けたかったんじゃないのかよ。
あなた、鬼の副長なんでしょ。

土方十四郎は呆然と刺された佐々木鉄之助を見る。

そして私も、彼の視線を追うように現場に目を向けてー



「これで俺の仕事はシメーか」
「そうか」
「じゃあ」

「こっからは俺の好きにやっていいんだな」

現実を、疑った。






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