赤い空の下に、白と黒が集っている。

見廻組と真選組。
2つの警察組織がこうも一同に揃うことなど滅多にない。貴重な瞬間にボルテージが上がっているのか、廃ビルの屋上からは、煽るような声が聞こえる。

「名前」
「…はい」

副長と目線を合わせる。
私は存在を気取られないよう注意しながら廃ビルに向かう。

バラガキを救いたい真選組。
何も救わない見廻組。

その意見が交わることはなく、場は張り詰めていた。
それどころか、副長は真選組局長の首を狙いに刀を抜こうとしていたし、それを阻止するために沖田さんは刀を抜いた。「今はそんなことをやっている場合ではない」と言う真選組局長の言葉に、私は唇を噛むことしかできなかった。

佐々木鉄之助ごと攘夷浪士を殲滅しようとする見廻組の壁となったのは、土方十四郎だった。真選組の狙いは、佐々木鉄之助の救出。土方十四郎が局長をはじめとした見廻組を引きつけている間に、別働隊で人質を救う計画なのだろう。

「あの女まるで死神だ!!急所を一撃で仕留めるあの技…暗殺剣の使い手か!」

眼前を走る副長はまさにその通り、死神の鎌を振り下ろすように人を斬る。急所に一撃。悲鳴をあげることすら許さないその剣に、屍の道が出来上がる。

副長は後ろの真選組のことなど介さず進む。ビルからビルに、階段も使わずに上に飛ぶ。先には攘夷浪士が2人。

「!敵襲ッ…」

副長が斬る前に、攘夷浪士が後ろから斬られる。
鮮やかとも言えるその剣筋に、私たちは足を止める。

暗闇から現れた男の子と、副長は目を合わせた。

「やっぱり、アナタも警察じゃない
 私と同じ、人殺しの目」
「…沖田さん」

沖田さんはこんな状況下だというのに、その可愛らしい顔立ちを示すように微笑んでいる。

「ザキ。近藤さんのこと頼まァ」

副長が刀を振り下ろす。

「コイツの狙いは鉄の首でも、まして敵の首でもねェ」

沖田さんの後ろの支柱が、豆腐のように斬れる。それも、彼の頭の位置スレスレで。

「俺の首でさァ」
「いいえ。
ーアナタの◯◯◯よ」
「!副長!そんな、沖田さんと闘ってる場合じゃ…!」

私の訴えは飛んでくる瓦礫によって遮られた。完全に副長の人斬りとしてのスイッチが入っている。こうなった以上、彼女は標的を殲滅するまで止まらない。理屈では語れない精神の持ち主なのだ、今井信女という女は。

「名前」
「!」
「好きにすれば」
「は!?好きにって…ああ!副長!ちょっと…ッ!」

副長は私にそれだけ言って、沖田さんと共に消えていった。きっと彼女らは、想像を絶するほどの命のやりとりをするんだろう。私の声などもう届かない。私の足は行き場をなくす。

好きにすればって、そんな、勝手な。

「あの…」
「!」

私にかけられた声に、体を強張らせる。存在はもちろん目に入っていた。しかし、話しかけられるとは考えていなかったからだ。

「見廻組副長補佐の…名字名前殿とお見受けします。俺は監察の山崎退です。こっちは局長の近藤勲」
「…真選組が、何ですか」
「俺たちも、君と同じで、今は争っている場合ではないという意見だ。俺たちはまず鉄を救いたい。そのためにー」
「…私が従うのは、人間の局長です」
「それ俺が人間じゃないって言ってる?ねえどういうこと!?俺がゴリラってこと!?ゴリラだから従ってくれないってことォオ!?」
「局長、誰もゴリラって言ってないです」

お前も今言ったじゃん!

およそ廃ビルの中で交わすものではない会話を背後に、私は屋上に向かう。沖田さんと争っている場合ではない、という私の言葉を彼らは都合よく捉えたのだろう。意見を同じくするのならば、共に佐々木鉄之助を救出してくれないかと。しかし、それは我らが局長の思うことではない。

彼の目的は任務を迅速に遂行することであり、手段を問わず私はそれに従わなければならない。私の中に、疑念があったとしても。それが見廻組副長補佐として生きていた名字名前のあるべき姿だ。

今更、自分を裏切ることなんて。





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