「パー子さん、今夜もいないんですね…」
「まあ、あの子アルバイトみたいなもんだから、いる方が珍しいのよ」

 そっかあ、と私はうなだれる。あれから何度かかまっ娘倶楽部に顔を出してはいるのだが、パー子さんがいたことはない。

「ここにくればパー子さんに会えると思ったんですけど…」
「…まあ、『パー子』にはここに来なきゃ会えないわね」
「ですよねえ、アゴ美さん」
「いやアズ美ね」

 たしなめるようにアズ美さんは私の頭を小突く。
アズ美さんは、このかまっ娘倶楽部で働くオカマの一員であり、あれから何度か足を運ぶ私の相手をしてもらっている。

「にしてもあんたもこんなトコ来ずに、どっか出会いでも探しなさいよ。パー子だってその辺で飲んだくれてるかもよ」
「うーん…私ちょっと人見知りで…。男の人っていうのもあまり得意じゃなくて」

だから女の子同士だと気が楽なんですよね、と言うとアズ美さんはぱっと顔を明るくさせて、酒を飲む。

「あんたイイ女になるわよぉ!!どっかの誰かに泣かされたら言いなさい!ママと一緒に駆けつけるからァ!」
「頼もしすぎる」

 その後、お酒を飲みながらアズ美さんや西郷さんとお喋りをして、帰路につく。
かぶき町は相変わらず人工的に明るくて、昼に見た空の明るさとは全く違った。

「仕事やめてから、あんまり来なくなったなあ」

以前までは帰り道として通っていたかぶき町。今では通る回数も減って、かまっ娘倶楽部に来るときくらいしかかぶき町には来ない。

ーパー子だってその辺で飲んだくれてるかもよ

パー子さんはあまりかまっ娘倶楽部に出勤していない。しかし、この江戸の、かぶき町のどこかにはいるはずなのだ。私がかぶき町にもっと来ることが出来れば、その分パー子さんに偶然出会える可能性はあがるかもしれない。

「といっても、毎日通っちゃ流石にお金がなあ…」

平日の昼間に悠々と団子屋で働くだけの私にとっては、飲み代という出費は大きなものだった。以前の会社での給与が貯金として残っているので、生活に不安は感じていないが、それも無駄な出費が続けばいずれ底をついてしまうだろう。お金を使わず、かぶき町に滞在する必要があるのだ。

「あ」

目についたのは、一枚の張り紙だった。アルバイト募集とでかでかと書かれたそれに、私は1つの結論にたどり着く。

かぶき町で働けばいいんだ!

「すまいる」と書かれたチラシの内容を読み込むと、どうやら名前こそスナックとかいているものの、内容はキャバクラの類であるようだった。
キャバクラ。お酒を飲みながら大人の男の人を接待する職場…というイメージが強い。果たして男の人が得意ではない私に、勤まるのだろうか、と不安になる。しかし、行ってしまえばパー子さんだって、客は基本的に大人の男の人だし、キャバ嬢とやっていることはそう変わりないだろう。これは間違いなく共通点だ。もしかしたら会った時に、会話が盛り上がるかもしれない。

「男の人の克服にもなるかもだし…」

私は記載されていた住所をしっかりと覚えて、かぶき町を進む。向かう先は「すまいる」だ。





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