ありがとうございましたー、という声を尻目に薬局の自動ドアを通る。
近くにあった自販機でお水を買う。薬局のレジ袋から今まさに購入した薬を取り出して、水と一緒に身体に流し込む。

「お前ちゃんと朝飯食ったのか。薬は飯食ってからじゃねーと身体によくねえってカーチャンが言ってたぜ」

ペットボトルのキャップを閉めて、一息ついたところで、横から話しかけられる。
そこにはスクーターに少し寄りかかっている万事屋さんがいた。

「…帰ってなかったんですか?」
「言ったろ、不粋な男じゃねえって。真選組屯所まで…あいや、屯所は近寄りたくねェな。近くのコンビニとかでいい?いや、おたくのニコチン野郎にイチャモンつけられたくねーし」

 ああだこうだ言いながらも私を屯所まで送り届けてくれるということなのだろう。今まで副長と喧嘩したり街中で問題ばかり起こす印象があったが、この人は普通に優しい人なのかもしれない。朝礼で話を聞かない有象無象や、小言がうるさいマヨラーやゴリラとかよりも、もしかしたらいい男なんじゃないかとすらと思った。

「にしても女ってもんは大変だねえ、そんな具合悪くなるもんなのか」
「うーん、個人差はあるのでなんとも。でも私は最近ひどいんで、産婦人科で検査とかしてもらおうかなあとか思ってます」

 私は薬局の後ろに大きく立っている大江戸病院を見上げる。大江戸病院はその名の通りこの江戸の中では非常に大きい病院だ。中に産婦人科も併設されているというのは以前調べたことがある。検査に行こうとしても、非番をうまく調整できなかったり沖田隊長に連れまわされてして、なかなか行けないのだが。
ピルを処方してもらえば生理痛が収まる可能性は充分にあると言うし、行く価値はあるはずだ。

 次の非番はいつだっけな、と考えを巡らす私を万事屋さんは頭を掻きながら見る。

「ま、あんな男所帯じゃどうにもなんねえわな。早々に医者にかかるこったな」
「そうですねえ、次の送迎は産婦人科にお願いしますね」

薬を飲んだことで精神的に少し楽になった私は冗談めかして言う。

「おいおい、それじゃあ端から見たら俺らがデキちゃったみてえだろうが。いやまあ、銀さんは無駄撃ちとかしないけどね」
「いや何の話?知り合いでそんな勘違いする人なんて早々ー」

 いないですけどね、と言う私の言葉とバタン!という大きな音が重なる。

 万事屋さんと音のした方向を見ると1台のパトカーが停車していた。
ああ今の大きな音はパトカーのドアが閉まる音か。やけに乱暴に閉めるなあ。と呑気に考えたが、パトカーの傍に立つ男の姿を見るとそんな考えは消えてしまった。

「次は産婦人科、だァ…?」
「…アレッ副長…?」

鬼どころか般若も背負っているような禍々しいオーラを背負う副長は、朝お小言を言いに来た以上に怒っているように思える。

「万事屋…テメェ…うちの隊士とヤりやがったのか…」
「え、ヤるってなに?なに?むしろ土方くんのほうが殺ってそうな目してんだけど?」
「刀ァ抜け万事屋!!!てめェみてーなちゃらんぽらんにはウチの隊士は預けられねえンだよ!!!!!!」
「おいィイイイイイ!!ぜってー勘違いしてるよこの人!!おたくの副長どんな思考回路してんの!?なんで産婦人科っていうワードだけ聞き取れちゃったの!どんなノイズキャンセリング機能ついてんの!!!」

 薬局の駐車場で刀を抜く副長は異質だ。
そして問答を交わす私たちも異質な存在なのだろう。副長がどんな思考回路をしているのかは私も知らないが、もしかしてこの人は、私と万事屋さんが付き合っているとでも思っているのだろうか。

「お、落ち着いてください副長ォ!!ここ薬局ですから!!産婦人科でもないし!!」
ほら!と私は薬局のレジ袋を見せる。確かにここは、産婦人科が併設されている大江戸病院のすぐ横ではあるが、私たちがいるのは薬局の駐車場なのだ。

「検査薬の次に産婦人科ってことだろ!ンな甲斐性もねえ甘ったれクソ天パとなんざ近藤さんが聞いたら泣くぞ!!」
「ノイズキャンセリングどころかイヤホン脳みそまで突き刺さってるよこの人!!もー真選組やめようかな!!」
「寿退職だァ?!」
「もうダメだ!」

 私は頭を抱えながらその場に蹲る。
本当に副長の頭にはマヨネーズしか詰まってないらしい。私の言葉をことごとくひどい解釈をする姿に、こんな男に真選組の副長をやらせていいものかと泣きそうになってしまう。ちらと横の万事屋さんを見上げると、顔こそよく見えなかったが、その握られた拳は震えていた。

「ちょっと、万事屋さんからも釈明してくださいよ」

 万事屋さんの着物の裾を引っ張りながら訴えかける。副長の勘違いには恐ろしいものだが、この人からも弁明してもらえばすぐ誤解は解けるはずだ。優しい万事屋さんは困っている私を助けてくれる…と私は思った。
 が、私は失念していたのだ。この2人が顔を合わせれば喧嘩しかしないことを。

「誰がクソだこの脳マヨネーズが!!少なくともてめえよりかはマシだ銀さんは甲斐性じゃねえンだ日々の日常が幸せなんだよニコチンとマヨに毒されてる日常とは違ェんだよ!!!!」

ぐいっ、と首根っこを掴まれ無理矢理立たされる。体重のバランスを崩した私は万事屋さんに寄りかかるような姿勢になってしまったが、万事屋さんは堂々と受け止める。すぐ近くに感じる男の人に、少し気恥ずかしさを感じたが、目の前の男2人は私のことなど眼中にないようだ。ひたすらに言い合いを続けている。

「ニコチンとマヨは俺のステータスだ今更イチャモンつけてんじゃねェエ!砂糖と煩悩にまみれるよかマシだろうが!!」
「はぁ!?煩悩持ってない人間なんているんですかァ!?誰だって男は煩悩と捨てれない17の思い出を抱えて生きてンだよ!!糖分だって必要だろうが激甘とか切甘とかあるだろうがァアア!!」
「いやそれジャンルの話ィイイ!!砂糖って意味じゃねェからァア!!!」

 いつのまにか副長と万事屋さんの距離は接近してきて、もはや唾と唾が交戦状態である。
そしてそんな二人が近いということは、万事屋さんの傍にいた私は必然的に挟まれることになる。白い着物からはほのかに甘い匂いがするし黒い制服からはタバコの匂いがする。
そして頭上からは言い争いのエンドレスである。耳を塞いでも意味がないレベルだ。先ほどまで焦っていた自分が馬鹿みたい。
 2人の男に挟まれながら視線を遠くの景色に移す。あーいい天気。

副長の乗ってきたパトカーもいい感じに太陽光に反射して砲口がキラめいていて…。

「…っエ、砲口?」

 ひく、とひきつる私の口元と、助手席からこちらにバズーカの砲口を向ける人物ー沖田隊長の口元がにやりと重なるのは同時だった。

「死ね土方ァアアア!!!!!」

ードカーン!!!と、鳴り響くその音は、本日2回目に聞く音であった。




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