「うわ、薬切れてんじゃん…」
朝礼を行なっていた場所から少し離れた自室に戻り、さあ薬を飲んであったかくして寝ようと意気込んでいた私を待っていたのは、薬のストック切れという現実だった。
思わず頭を抱える。薬を飲まずにこのまま寝るか?いやでも、2日目の痛みは薬なしでは耐えられるものではない。
「…薬局行くか」
薬局までは少し距離がある。パトカーを使うわけにもいかないし、そもそもこんな二日酔いの状態で車なんかに乗ってしまったら、嘔吐すること間違いなしである。ゲロイン不可避状態だ。
私は隊服を脱ぎ捨て非番用の着物に着替える。貼れるタイプのカイロがあったので気休めに下腹部に当たるように貼っておく。有給を(無理矢理)いただいた私は真選組隊士ではなく、只の女に成り果てている。財布と携帯といった持ち物を確認して私は襖を開ける。
「………」
「…あれえ副長、イメチェンしました?」
「誰のせいだテメーがバズーカ撃つからチリチリになったんだよ!!!勝手に抜け出しやがって!!!」
その先には私を待ち構えるように土方さんが立っていた。二枚目と呼ばれている彼の頭はひどい寝癖のように爆発していて、毛先もチリチリとしている。どう考えても私の打ったバズーカのせいである。
とぼけた私の言葉に対して怒鳴る副長の言葉が頭に響く。
「有給中なんでお説教は今度にしてください」
「許可した覚えはねェけどな」
副長はため息とタバコの煙を一緒に吐く。
「もー、ほんと、具合悪いんです、勘弁してください。別に今日大事な案件とかないでしょ。どーせ見回りでしょ、見回り。真選組は所詮夢小説じゃ見回ることしかしないんですよ」
「何の話ィイ!?他にも色々やってるわ!!何回討ち入りしてると思ってンだ!!!」
「ぐるぐる見回って一生山手線して帰ってくんな土方コノヤロー」
「ンだとコラァ!お前どんどん総悟に似てきてンだよ!!」
今にも血管が切れそうな副長の脇をすり抜ける。副長には申し訳ないが今の私には副長のお小言に付き合っている暇はないのだ。
「う…」
カイロのおかげでお腹の痛みは多少マシにはなっているが、相変わらず痛みは襲ってくる。それに加え、昨晩のお酒が身体に影響しているのを感じる。お腹をさすりながら私はトイレに駆け込む。
「うえええ…」
嗚咽を漏らしながら便器に嘔吐する。車に乗らずともゲロインになってしまった。しかし、吐き出すものを吐き出したところ少しだけすっきりしたような気がする。
トイレを出ると未だに副長がそこにいた。まだ何か言いたいことがあるのか、この人は。
副長はお腹をさする私を見下ろしなんとも言えないような表情をしている。副長は確かに鬼のような人ではあるが、本気で苦しんでいる人には優しい人だ。目の前で苦しむ私にどう声をかけていいか迷っているのだろう。優しい人ではあるが、素直ではないのだ。
「薬局行ってきます…」
カイロのあったかさを感じるようにお腹をさすりながら歩く。未だに気持ち悪さは残っていた。
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