allegrissimo




高校デビュー?
くだらない、そんなのどうだっていいよ。ちょっと羽目を外したり、洒落こんだり、そんなの面倒くさいだけじゃないか。
高校二年のオレは、相変わらず何事にも興味がなかった。裏腹に周りはどんどん変わっていった。そのことに焦りはなかったし、寧ろなんとも思わなかった。
つまらない?それも思わない。こうしてゆっくり時間が過ぎるのも、悪くない。だって、なにかを楽しもうとか思わないんだ。
オレは目立たないただのオタクだ、底辺だ。それで構わない、それがいい。地毛の黄色の髪だけが妙に目立ってしまうけれど、視力も悪くないのに常にダサ眼鏡をかけて、休み時間はひたすら読書、それか睡眠。それでいい、それがいい。
「鏡音、レンくん?」
女子には敬遠されていた、男子の話を無視すれば軽くからかわれた。それで分かった、面倒なことに首を突っ込まないようにするためには、適度な会話が必要だ。するりと交わせばいいのだ。
「なに?」
だから返事をした、それがまずかった。声をした方を見上げれば、自分とよく似た容姿と、ピンでとめた黄色の髪、そう、クラス中が騒いでいた、転校生の鏡音リンだ。他人、それが女子でも、興味がないオレが彼女を覚えていたのは、転校生だからじゃない、彼女があまりにも自分に似ていたからだった。
「わあ!ほんと、リンにそっくり!」
はい、はい、そうですね。
「あ、ごめんね、寝てたのに起こしちゃって」
いや、まあ狸寝入りというやつですがね。
「びっくりしたよー、名字も、顔も、髪も、おんなじなんだもん!」
こっちもそりゃあびっくりしましたよ。
「ドッペルゲンガーかと思ったよ!知ってる?ドッペルゲンガー、見たらしんじゃうんだよっ」
あらあら、そりゃあ大変ですこと。
「でもまだリンしにたくないんだー、鏡音くんもでしょ?がんばって生きようね!うんうん」
いやあ、これほど無駄に生きてる人間はオレだけかもしれないですがね。しょうがないさ、生きてることに、なにかを見いだせないんだから。
「あ、リン、鏡音リンって言います!よろしくねっ」
今更自己紹介かよ。
差し出された手を、かわせる訳もなく、オレはそっと手を出した、途端、ガッと掴まれそのまま腕が抜けそうなくらいにブンブンと振られた。
「わあい!リンねリンね、まだ全然友だちいなかったから、嬉しいなあ」
友だち、とか。まだ全然話してもないのに。‥‥、それでも、オレに対してこんなに話しかけてきて、友だち、とか言ってくれたのは、こいつが‥はじめてかもしれない。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、胸の高まりを感じてしまう。慣れないんだこんなこと、なんだか調子が狂わされてしまう、だって、握った手が熱い。熱を帯びて、全身が麻痺してしまいそうな感覚。
「よろしくね!‥あ、レンって呼んでいい?リンと名字おんなじだし、なんか変な感じがするから」
「‥‥いいよ」
「リンのことも、リンって呼んでね?レン、自分のことさん付けしてるみたいになるよ」
あははなんて笑ってから、ね、呼んで呼んでとせがむから、ああ畜生、顔が近い。
「リ‥‥、リン」
「えっへへー、ありがとうレン、改めて、よろしくねっ」
その瞬間、自分に向けられたリンの笑顔に、オレは不覚にも考え方を180度変えられてしまったのだ。ああ、畜生、畜生。可愛い。可愛いよ。おかしいな、自分と同じ顔のはずなのに。
自分と真逆でよく喋るし、一方的だし、しつこいしうるさいし、‥‥でも、なんか嫌じゃないんだ。だって、リンの手はこんなに暖かい。リンの笑顔は、こんなに眩しい。
オレは何事にも興味がない、目立たない、ただの底辺だ。こんなオレに、こんな笑顔で話しかけてくれた子、今までいただろうか。

大袈裟かもしれないけど、オレは今、どうせ生きるなら、君のために生きたいと思ったよ。













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