全て壊してしまいたいと思った。
自分の周りにいるもの全て、自分を取り囲むもの全て、歌も、マスターさえも。
何もかも要らない。
自分は所詮バグなのだ、どうにも存在意義の見いだせない自分に対して接してくる態度が嫌いだ、だから、要らない。
ああなんて醜いものだろう!世界は醜い、こんな自分を産み出してしまった世界も、こんな自分に接してくる世界も、全て醜い、きっとさぞ後悔しているだろう、ねえ、マスター。貴方は僕を見ていない、それならいっそ、世界は消えてしまえばいい。
しかしリンは止める。
「たいとは醜くなんかないよ」
リンと僕は正反対だ。世界の全てが素晴らしいという、世界の全てが愛しいという、そして、僕さえも。
リンは無知だ。
「みんなみんな、やさしくて、あったかい」
なにも知らないんだ、どれだけ腐り切った世界であるのか、僕がどれだけ澱んだ想いしか抱けないでいるのか、ああこれだから、無知は嫌いだ。鬱陶しい、リンの純真無垢な瞳は僕を追い詰める。しかしリンが抱きしめてくれる腕の中は、やさしくて、あったかい。
リンは素直だ。
「たいとは、さみしいんだね」
だから本心など筒抜けなのだ、だから着飾らない、感じるがままの言葉、それが、嗚呼、否めない。
「寂しくなんか、ない」
「うそついちゃだめだよ」
ふざけるな、いつも何も知らないふりして人の中まで踏み入れてくる。分かったような口振りで僕を包む、リンは、本当に無知なのだろうか。本当は誰より僕を分かってくれているのではないだろうか。嗚呼、鬱陶しい。分かってほしくなんかない。分かってほしくなんか、ないのに。
「たいとはたいせつだよ、リンはたいとがだいすきだよ、たいとがどれだけマスター好きか知ってるよ、たいとがどれだけ苦しんだか知ってるよ、たいとのせいじゃない、たいとはいいこだよ、だいじょうぶだよ、醜くなんかないよ、たいとはキラキラしてるんだよ」
煩い、煩い、鬱陶しい。こんなことを思ってしまう僕のどこがキラキラしてるというのだ。分かってない、分かってる、いい、要らない、その優しさも、その言葉も、言葉を紡ぐ唇も、純真無垢なその瞳も、黄色の柔らかな髪も、僕を抱きしめる幼い身体も!
けれど君は笑う。
「たいと、たいと、がんばったね、もういいよ」
「がんばってない」
「つらかったでしょう、悲しかったよね、泣いていいよ、みんなにはナイショだから、ね、たいと、リンはたいとがだいすきだよ」
リンのほうがキラキラしてるんだ。その優しさも、その言葉も、言葉を紡ぐ唇も、純真無垢なその瞳も、黄色の柔らかな髪も僕を抱きしめる幼い身体も!眩しくて愛しくてたまらない!
何故だろう、悔しい程にリンの言葉が、心地好く感じるリズムで紡がれる。
「リン」
君は、知らないんだね。世界がやさしくあったかいのは、リン、君が、リンだからってこと。ねえ、リン?もし世界が僕を嫌って、置いていってしまっても、君だけは、僕のそばにいてほしいな。


そして世界はキラキラ光る。












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