アツシは、俺から甘い匂いがするって言うけれども、それはこっちのセリフだ。アツシの身体からは、いっつもチョコやキャンディやグミなんかの、お菓子の甘い匂いがぷんぷんじゃないか。
「そういう意味じゃねーし。分かんないけど、なんか、甘い匂いがする」
俺のことを後ろからホールドして、首筋からはぐりぐりと頭わ押しつけられたような感覚がする。夏に一度切って以来ずっと伸ばしっぱなしで長い、アメリカではよく見た合成着色料を使ったお菓子みたいな紫色の髪が視界の端に映る。
「くすぐったいよ、アツシ」
「室ちん、くすぐったいのダメなの〜?」
「そういう訳じゃないけど、ちくちくするから」
「ふ〜ん…‥」
そういうと、つまんなそうに、不貞腐れた声を出して、俺を放す。近くにあったチョコレートの包みを開いて、口に放り込む。やっぱり、甘い、甘ったるい匂いだ。正直チョコレートはあまり好きではない。よくてビターだし、それ以前にあんまり食べたいとも思わない。だから、よくそれをポイポイと口にするアツシに意味もなく感服したことがある。
「アツシ、」
「ん〜?」
「キスしよう」
不意打ち、返事も聞かずにチョコを口にしたままのアツシの口にかぶりつく。キス、というより食べてるに近い。彼の口の中から流れてくるソレはやはり、甘ったるい。
「室ちん、俺のチョコ食ったァ〜〜!」
唇を離せば、真っ先に言ったのはキスしたことへではなく、チョコを横取りしたことへの不満だった。思わず笑うしかない。ソレに余計不貞腐れたアツシは、俺の腹に拳をぶつける。痛いけど、本気じゃないことくらい分かる。
「ごめん、アツシ。あとで買ったげるから」
「んー‥、アポロ食べたい」
「分かった。一緒に行こう、な」
とびっきり、甘やかしてやれば、ふにゃふにゃと笑う。
「てかさ、」
「ウン、なに?」
「室ちん、チョコ嫌いだよね」
俺の顔を覗き込んで、よかったの?なんて聞いてきたのに、ちょっと驚いた。別に言ったことはないのに。あぁ、でもあまり気にしなかったかもしれない。
「アツシの味がしたから、あんまり気にならなかったよ」
「へぇぇ、じゃあまた今度一緒に食べよ〜」
また、笑う。子供みたいに屈託のないソレが可愛くて、俺はまたキスをした。




present by 蒼田 さん


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