黄瀬と会うのは大体2週間に一回。もっと少ないときは月に一回。だから毎日のように会った気になるくらいの頻度のときもあれば、存在を忘れてしまうくらい会わないときもある。どちらにせよ、黄瀬がこちらに来るのがほとんどだった。大雑把な付き合い方だと思うが、特に自分達の関わりに支障をきたしていないのでそれでもいいと青峰は勝手に考えていた。会いに来るときの黄瀬は、用事があったり、何にもなかったり、笑ってたり、不機嫌だったり、泣きそうだったり、様々だった。忙しいやつだと、毎回思う。
そして黄瀬は必ず帰り際、青峰の首もとのシャツを緩めてそこにキスをしていた。強く乱暴ではないけれど、しっかりと残るように。2週間に一回でも、月に一回でも、それは変わらない。それはいつしか別れのサインとなっていた。どーゆう意味だよそれ、と聞いても黄瀬は曖昧に笑うだけだ。だからこの頃は何も聞いていない。毎回返ってくる仕草はちっとも変わらないからだ。それに、それがどんな意味合いなのかが少し分かったような気がしていた。


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黄瀬は昔から、今の調子だった。中学の頃はよく青峰にくっついていた。1on1をせがみ、とりとめのない話題を尽きることなく広げていく。俺に飽きたりしないのだろうかと青峰は思ったが、黄瀬は終始そんな調子だった。自分のどこがそんなにいいのか、全く分からなかった。黄瀬がわざわざ自分を選ぶ理由なんて、一つも見つからなかった。黄瀬は以前、何人かの女と付き合ってたようだし、女なんてあいつにとったら選び放題だろう。青峰はずっとそう思っていたけれど、口にしたことはなかった。伝えない理由こそないが、伝える必要もないと思っていた。それでも、心のどこかで伝えるのが怖かったのかもしれない。今となっては関係ないのだが。




「青峰っち、どうしたんスかぼーっとして」



うっすらと街灯に照らされた黄瀬の顔は相変わらず整っていた。やっぱり何でコイツと付き合っているのか分からないと思いつつ、何でもねーよ、と言った。辺りはぼんやりと曇り、視界はぼんやりと暗かった。



「俺、もう帰らないと」


「…ああ、もうそんな時間か」



「ん、じゃあね青峰っち。また来るっス」


隣に座っていた黄瀬はいつものように青峰の鎖骨あたりにキスを落とした。痛くはない。毎回味わうその感覚は、いつしか自分に馴染んでしまっていたのだ。ふわりと、少しだけ懐かしい黄瀬の匂いがした。思わずその頭に、自分の頭をのせる。首に細い髪が触ってくすぐったい。




「どーしたんスか」



「おまえさあ、女みてえ」


「…嫌っスか?こーゆうの」



「嫌じゃね―けど、おまえって独占欲強いよな」



「……そーじゃないっスよ」


「は?」


「…何で首じゃないか、分かんない?」


「……」


「…やっぱ、なんでもないっス。忘れて」



黄瀬がゆっくりと頭を上げて、ベンチから立ち上がる。最後の方の黄瀬の声は掠れていて聞こえなかった。ひゅう、止んでいた風か少しだけ吹き始める。



「またね、」



そのまま黄瀬は振り替えることなく来た道を戻っていった。何の変哲のない、いつもの別れだった。しかし、どうもさっきの寂しそうな黄瀬のなんとも言いがたい顔が、ぐるぐる頭を回っているのだ。鎖骨の辺りが、少しだけ痛かった。





やさしい同情を手探りで愛した
(昔の僕と今の君)




present by まめた さん


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