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 学校ってのは閉鎖された箱だ。そのなかの事件はすぐに知れ渡る。
『学校随一の不良が机に向かって勉強し始めた。休み時間も勉強してる』
 こんなことがニュースになって積極的にささやかれるうちの高校は、本当に平和だ。……平和じゃないのは俺だけだ。
 今日は厄日だ。カレンダー上では大安だけど、俺限定で仏滅だ。

「じゃ、これ本神に渡しといて」
 職員室に呼ばれたかと思えば、三年の島(職員室での机の位置)にいる先生たちにうずたかいプリントとテキストの山を渡されて、俺はよろめいた。……目の前が見えない。
「うぉ」
「こっちは19日までが提出期限だから、で、これは考査後でいいから」
「あ、この両面刷りのは提出しなくていい。勉強用に使ってくれ」
「テキストに直接書き込まずにノートに写してやるよう言ってね」
 見えない向こうで、先生たちがそれぞれが喋っている。三年の教師とは接点がまるで無いために名前すらわからない。あんたら誰なんだ。
「あの」
「ん、なに? わかんないことある?」
 ぜんぶだよ、ぜんぶ。とはさすがに教師にはいえない。
「なんで俺が本神先輩に」
 かろうじてそう聞くと、一人の先生が「え?」と驚いたような声音になる。驚いてんのはこっちだったはずなのに、なんか俺が間違ってるみたいですごく気まずい。
「だって君、家庭教師するんでしょ? 俺アイツの担任なんだけど本神提出物よく溜めるから、というかむしろ課題自体うけとらないから、家庭教師さんのほうに頼んどこうと思って。よろしくね。」
「は?」
 何で知ってるのか。とか、どうして下級生が家庭教師だってことにツッコミがないんだ。とか、色々言いたい。言いたいけど、先輩の担任教師は俺の返事を待たずして矢継ぎ早に言葉を重ねてくる。さすが喋るプロ。口が回る回る。
「いやー助かる。本神その気にさせてくれたみたいで。あいつさぁ、俺がどんだけ言っても上の空だったし自分の好きな教科しかやらないし、っていうかむしろ好きな教科は勉強しなくてもできるからいいとか言うし、これから成績とか授業態度のことは君に注意してもらおうかな。進路相談も君やってあげてよ」
「いやいや、おかしいです先生。ソレ全部先生の職務です」
 何で堂々と職務放棄宣言してるんだこの担任。そしてどうして笑うんだ周りの教師陣。突っ込んでくださいそこは。
「先生もね、たくさん受験生抱えてて本神一人にかまってるわけには行かないからさー」

 あぁ、大人って汚い。

 職員室を出る俺の腕の中には白い山。一人でもって帰るのは到底無理な量。
「……行きたくない」
 だけど、これを渡せるのはあの人だけだ。

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