セリアの視界に最初に飛び込んできたのは、見慣れた天井だった。真っ白な、何の変哲もないただの天井。しかしセリアはそれを瞬き一つしないままひたすらに見つめた。ただ単に理解できなかったのだ。ここは自分の部屋、しかしどうして自分はここで寝ているのか。そうして思考を張り巡らせれば、ハッと何かを思い出しセリアは弾かれるように体を起こすが、容赦なく襲い掛かる眩暈にすぐに頭を抱えた。セリアはマナの酷使により気を失ってしまったことを思い出す。



「目が覚めたみたいだね」



突然隣から聞こえた穏やかな声にセリアは驚きもせず、緩やかに視線をよこした。とても懐かしい声だ、この声を聞くのはもう何年も前のことになるのに、案外記憶の片隅で覚えていたらしい。安心したような、それでいて呆れたような顔をしてセリアは一つ息をつく。鈍い赤の瞳、セリアと同じ瞳の色をした男はその瞳を細めてニコリと微笑んだ。



「久しぶりだね、セリア。また綺麗になってる」

「ユヴェも相変わらずね。お世辞が上手いこと」



これはお世辞じゃないよ、とふにゃりとユヴェが笑う。それと共に琥珀色の髪がさらりと揺れれば、それはセリアの視線を独占した。女でも羨むほどの綺麗な短髪は彼のチャームポイントでもある。それは自分たちが最後に会った日、約二年も前の話になるがそれでも当時と全く変わっていないことにセリアは感心の意すら覚えた。

ユヴェは自分が着ている白衣のポケットに手を入れて、ベッドの端にゆっくりと腰を下ろす。至極争いを好まないような穏やかな雰囲気を醸し出している彼は、世間では癒し系の部類に入るのだろうか。そんなことをぼんやりと思いながらセリアは、自分と同じ鈍い赤の瞳を見つめた。



「女将さんたちが心配してたよ。相当無茶をしたんだね」

「…後で謝っておくわ」



セリアはゆるりと自分の膝を抱え、それに突っ伏した。いつものように結われていない翡翠色の髪がそれに伴ってさらさらとセリアの体をなぞる。どことなく弱々しい彼女の光景にユヴェは、セリアに聞こえるか聞こえないかの程度で小さく息をつき、僅かに目を細めた。



「前のセリアならこんなことしなかっただろうね」

「……」

「心境の変化?まさか、ウィンガルの…」

「違う!」



勢いよく顔をあげ、セリアは声を張り上げる。しかしその行為がらしくないことに気付き、悪かったわと謝った後しょげたように顔を俯かせた。そういうものは過剰に否定されればされるほど言葉の信憑性を疑うものだ。ユヴェは先程よりも大きく息をついて首を小さく横に振って見せた。



「手紙を見た限り、君の思いはずっと変わってないと思ってたけど」

「…変わってなんかないわ。だからこうしてこの場所に辿り着いた」

「…そうだね。セリア、忘れないで。俺たちの生きる理由を」



じゃあ俺はまだ仕事が残ってるから。そう言うとユヴェは立ち上がり、セリアの方を一度も振り向きもしないまま扉を開けて部屋を出て行った。しかしセリアもまた、ユヴェの方など見向きもしないままパタン、という扉の閉まる音を聞いてやっと顔を上げる。



「そんなの…言われなくても分かってるわよ…」



ユヴェの言葉を頭の中で何度も繰り返しながら、セリアはまた自分の膝にゆっくりと突っ伏す。心の奥底にあるはっきりとしない、もやもやと霧がかかったような気持ちに気付かないふりをして。



(二年前と何ら変わっていない)
(変わったのは…私を取り巻く環境だけ。そう、それだけ)

(20111211)

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