「この度、ウィンガルさんの下で働くことになったセリアです。よろしくお願いします」



小さく頭を下げて、にこりと微笑む。決まった、とセリアは心の中でガッツポーズを決めた。斜め前にいる漆黒の男は呆れたように息をついていたがセリアは気にしない。



「プレザよ。よろしくねセリア」

「ジャオじゃ。よろしくな」



差し出された手に自分の手を重ねていき、セリアは更に笑んだ。第一印象は完璧、と。しかしプレザの隣にいる銀髪の赤服の少女が、名乗ることはおろか自分を怪訝な瞳で見つめているではないか。虫の居所が悪いのかしらと思ったセリアがその少女の目の前に立った時だった。



「…くせえ」

「え?」

「胡散臭えんだよ、その笑顔!」



鈍い赤の瞳を見開き、セリアは自分を指さす少女を凝視した。な、何なのこの子!?セリアは戸惑いからか思わずウィンガルの方を一瞥した。が、彼は僅かに口元を上げて笑んでいる。駄目だ、助けるどころか楽しんでるじゃないあの男…



「あの、私は…」

「うっせぇ喋んなババア!」

「ババア!?」

「アグリア、落ち着きなさい」

「そっちのババアも黙ってろ!」



ババアと言われ相当落ち込んでいるセリアを見て、とうとうウィンガルは僅かではあるが声を出して笑ってしまった。それを一瞬だけ睨みつけてセリアは引くつく口元を必死に抑える。堪えろ、堪えるのよ自分と何度も念じながら。



「ったく、陛下に気に入られたからって調子乗ってんじゃねぇよババア!」

「私はババアじゃなくてセリアというちゃんとした名前が…」

「黙れよ!あー寄るな寄るな胡散臭えのがうつる!」



ぷつり。その瞬間セリアの何かが切れたような音がした。あー考えてみれば私、我慢強いほうじゃないわよね。さっきまで微笑んでいたセリアの顔はふっ切れたように一変して、射殺すような鈍い赤の瞳の冷めた表情に変わる。そしてアグリアの顔に自分の顔を寄せ、セリアは口を開いた。



「ガキが粋がってんじゃないわよ」

「あぁ!?」

「陛下に気に入られた私に嫉妬かしら?女の嫉妬ほど怖いものはないわね?」

「て、てめぇ!」



形勢逆転というべきか。余裕な表情を浮かべるセリアに対して、アグリアは顔を真っ赤にして喚いている。しかし一体何が起きたのだろうか。喧嘩をしている二人をぽかんと口を開けてただ傍観しているプレザとジャオに、ウィンガルが呟いた。



「あれがあいつの本性だ」

「驚いたわ…猫被ってたのね。そんなことしなくてもいいのに」

「猫被っていた方が何かと便利だからとほざいてはいたが」

「女というものは怖いのう…」



エスカレートしていく喧嘩に何故かほのぼのしたものを感じてしまい、三人は呆れたように笑う。ここでアイツの本性を知らない者が来たらどうするのだろうな、と腕を組むウィンガルにプレザはあら、と楽しそうに彼の方に視線を向けた。



「なんだか楽しそうに言うじゃない」

「楽しい、か…まぁ、ババアと言われた時のアイツの顔は傑作だったな」

「ふぅん…」



期待するようなプレザの視線にウィンガルは小さくため息をついて、お前が期待しているようなことは一つもないと言い切る。対してプレザはつまんないとがっかりしたように肩を竦めた。しかしプレザは思う。今まであんなに楽しそうに誰かを見ているウィンガルを見たことがない。これはおもしろくなりそうねと緩く笑んだ瞬間、喧嘩していた二人がとうとう剣を抜いたのが見えてプレザはもちろん、ジャオは慌てて二人を止めに駆け寄った。



僅かな変化


(セリア、お酒とかイケる口?)(えぇ、大好きよ)(よかった、貴方と飲んだら楽しそうだもの!)


(20111127)

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