今日は日が落ちる頃に吹雪き始めるだろう。


すっかり日が落ち、辺りが暗くなった頃。その予報通り外は一メートル先もうまく見えないくらいの吹雪に見舞われた。久々の大雪にガイアスは黙り込んだままただ静かに外を見つめる。ゆっくりと腕を組んだ彼の眉間にしっかりと刻まれているのは深い皺。それを斜め後ろから見ていたウィンガルは、ガイアスが何か言葉を発さずともその眉間の深い皺の意味を理解している。長年の付き合いだ、ウィンガルは静かに口を開いた。



「今日はいつもより帰りが遅いですね」



漆黒の彼の言葉にガイアスの視線は変わらず外のままで、頷くでもなく返事をするわけでもなくただ小さく息をつく。心配?いや少し違う、何なんだこの嫌な胸騒ぎは…



「…レティは剣は握れずとも精霊術では彼女に敵うものはいない。直に帰ってきます」

「…あぁ」



ウィンガルの気遣いの言葉さえも左から右へと抜けていくガイアスは何もなければいいがとそこでやっと外から視線をずらした。その時響くノックの音、「入れ」とウィンガルが言った途端に勢いよく開け放たれる扉。次いで、息を切らした兵士が「が、ガイアス様!」と彼の前で膝をついて血の気の引いたような顔をしたものだから、ガイアスはウィンガルと少しだけ視線を合わせて「何があった」と兵に話をするよう促す。

できればこの嫌な予感は当たってくれるな、兵士の口から彼女の名前が出てくれるなとガイアスは願うように一度目を伏せた。しかし兵士の口から紡がれたのは。



「レティ様が、暴動を起こしていた部族に捕らわれてしまったとのことです…!」



嫌な予感ほど当たってしまうのはどうしてなのか。

小さく息をついたウィンガルをぼんやりと見ながら、ガイアスは自身の隣に置いていた愛用の長刀を手にした。ウィンガルはその行為に何を言うわけでもなくただ静かに見つめる。彼が一体今から何をするのか、それを問うのは愚問だ。



「お一人で?」

「あぁ。大方レティを人質にとれば俺が出てくると踏んだのだろう。望み通り罠に掛かってやる」

「心配は…御無用ですね」

「無論だ。留守を頼む」



「場所はどこだ」と兵に問いながら足早に部屋を出るガイアスを視線で見送り、ウィンガルはもう一度外を見た。この天候にレティを捕らえてしまうほどの実力…少々厄介だな。先ほどとは全く変わらない視界の悪さに彼は少しだけ目を細める。しかしガイアスが行くのなら心配は本当に無用だとすぐに頭を切り替えたウィンガルは、やがてガイアスが捕らえてくるであろう敵をどうやって尋問してやろうかと顎に手を添えながら部屋を出た。




刻々と近づく。



誰も知る由もない 別れへのカウントダウン。


(20111009)





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