いっそのこと全てを打ち明けて終わりにしてしまおうかと思った。

あの人を見る度に、触れる度に、感じる度に胸が詰まってどうしようもなくなる。


所詮、報われない恋だった。

そもそも一端の教師が理事長に恋をするなんて、行く末は考えなくても分かってる。


でも、それでも、心は素直に言うことなんて聞いてくれない。諦めようと思ってもあの人を見れば胸が高鳴る、忘れようと思っても気付いたらあの人のことばかり考えている。嗚呼、本当に馬鹿なんだよ私。それが自分自身を苦しめることになると分かっていても。




「…どうした。今日はやけに甘えてくるな」

「ん……」


薄暗い部屋の明かりの中、ベッドで一糸纏わぬ姿で転がっているのは私とガイアス。いつからこんな関係になったのかは覚えていない。でも二人とも相当お酒を飲んでいたような気がする。それからは時間があれば私がガイアスの家に行き、こうして体を重ねていた。

彼だって真面目だけど男だ。人並みの性欲だってちゃんとあるわけで。だから私はその欲求を満たすためだけの道具。そう、ただの道具。分かっているのに、きっとどこかでは愛して欲しいと思っている。

行為中にはどうしようもない虚無感と辛さに押し潰されて涙を流す。しかし彼はそれを生理的な涙と勘違いしているようだ。


「…ねぇ」

「なんだ」

「…ううん、なんでもない」


あまり顔を見られたくなくて、ガイアスの胸に顔を埋めた。きっと、酷い顔をしているわ。
彼は何も言わず抱き締めてくれた。

最初があんな始まりだったから、もう前の何もなかった頃の私たちには戻れないし、かといって先には進めない。彼は有名会社の社長の娘、それも私なんて比べ物にならないくらい美人で淑やかな方とのお見合いがあると噂されているから後者は尚更だ。

頭では理解しているはずだった。

だけど、今ここにはこの関係を終わりにしようと言えないままずるずると引きずってしまっているなまえがいる。結局はどんなに綺麗言を言っても、彼とそこに愛はなくても触れ合いたくて、何もなかったことになんかしたくなくて、例え偽りの愛の言葉でも欲しくて、


「…どうして泣くんだ」

「わか、らな……」


でも私が本当の気持ちを伝えたら、貴方は私を突き放すでしょう?

分かっているから、だから私は一番伝えたい想いを必死に奥底へと閉じ込めて、貴方の温もりだけを感じるの。


「なまえ」

「ごめ、ごめん…」

「…愛している」


そう言って更に強く抱き締めてくれるガイアス。

愛している。その言葉ほど残酷なものはないと、貴方はきっと知らない。



(20120329)









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