世界が、廻った。

背中に激痛が走ったと同時に、耐え切れず口から溢れ出る赤。綺麗に飛び散るその赤は私の自慢だったブルーサファイアの髪を容赦なく染めてゆく。視点の合わない瞳で周りを見渡せば、さっきまで私を殺しにかかってきた人等がピクリとも動かず転がっていた。自分の腹部に突き刺さっている真っ赤に染まった銀を、弱々しい手で引き抜いて放り投げる。言葉にならないほどの激痛が走った。

自分の呼吸する音しか聞こえない、とても静かで冷たい沈黙。

死が近くなると取り乱してしまうんじゃないかと思っていたけれど、案外そうでもなかった。逆に冷静すぎて自分が怖いくらいだ。自嘲するように笑えば、それだけで鋭い痛みが増した。
ふと、窓から漏れる光に思わず顔をしかめる。ああ、どうやら朝がやってきたみたい。眩しい日光を遮るかのように腕を持ち上げる。ふと、視界に入ったのは、血塗れになった手の中に一際輝く銀の指輪。小指につけられたそれは、とても大事な人から貰った物。

野望を果たせたその時は、その薬指にも指輪を贈らせて欲しい──

彼が滅多に吐かない甘い言葉、今も一言一句忘れてはいない。あの時の幸せな気持ちは、絶対に忘れられない。
だけど。
もう片方の手もゆっくりと持ち上げ、血塗れの両手で顔を覆った。

馬鹿だなあ。思い出したら死ぬのが怖くなるの、分かっていたでしょう?

走馬灯のように彼との思い出が頭の中を駆け巡る。あまりにも幸せで、罰が当たるんじゃないかって思うくらい充実した日々だった。だから、それが壊されてしまう悲しみ、そこには自分はもういなくなるという現実、それを静かに受け入れきれるほど私はできた人間じゃない。

恐怖に震えが止まらない。命が削れていくこの感覚が酷く恐ろしい。瞳からは涙腺が壊れてしまったかのように涙がぽろぽろと溢れ出る。止まらない、止める術が分からない。嫌だ。嫌だまだ死にたくない。まだ貴方の傍にいたい。いたいの。


「アース、ト…」


闇の中へと意識が引きずり込まれて行く中、沈黙を破るのは扉の音。追手だろうか、確認さえもままならぬまま血の涙で床を濡らす。遠くから、名前を呼ばれた気がしたけれど、返事をする気力さえなかった。

次の瞬間、上半身が起こされた感覚にグッと視線を上げる。ぼんやりと見える視界に入ったのは、黒と赤。もしかして、いや、まさか、きっとこれは私が都合のいいように見ている夢。だけどこの温かさは意識がはっきりしていなくても忘れない。

私の全てが、まだ生きたいと叫んだ。



「誰が死んでいいと言った、なまえ」



終末の出迎えになど行きはしない。


(20120213)









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