素直になんて、絶対になれないと思った。 毎日会う度に皮肉の言い合い、私ばかりが大声を張り上げる喧嘩。プレザやジャオはもちろん、あの陛下でさえも頭を悩ませていたと聞く。でも悪いのは私じゃない、煽ってくるウィンガルだ。あの冷やかな金色の瞳は私の冷静さを欠くのだ。 それでも、素直になりたいと願った。 ある日、一般人を庇って一週間は動けないほどの大怪我を負った時があった。ベッドの上でまるでミイラのように包帯に巻かれた自分。なんて情けない。きっと滑稽だと、私を見てウィンガルは笑うのだろう。しかし、その予想は外れた。あの冷やかな金色の瞳が僅かに揺らぐ。そして「…無事ならそれでいい」と、たったそれだけ私に告げた。皮肉を言われるのだろうと身構えていた私の頬は急激に熱くなった。それから一時、熱は冷めてはくれなかった。 今更、素直になれなかった。 ウィンガルが長期の遠征に出る前日、大喧嘩をした。それはあのウィンガルでさえも声を張り上げるほどの。今考えてみればそれはとても下らない理由だった気がする。そして喧嘩をしたまま、ウィンガルは遠征へと赴いた。その日の午後には冷静さが戻って、自分は幼稚だったと深く反省した。そんな私を見兼ねたのか、プレザは言った。「ウィンガルがあんなに怒ったのは、なまえが自分を犠牲にしようとしたからよ」意味が分からなかった。それでもウィンガルが帰ってきたら、謝ろう。おかえり、仲直りしてやってもいいわよと、とびっきりの笑顔で迎えてやろう。きっと気持ちが悪いと言われるだろうけど。 そう思ってから、いくつもの月日が流れた。 彼は未だに帰って来ない。ううん、彼だけじゃない、プレザもジャオもアグリアも。帰って来たのは陛下だけ。 何度か、思っていたことがあった。もし喧嘩したまま一生会えなくなったら、と。でもあのウィンガルだからそんなこと杞憂にすぎないと思っていた。思っていたん、だ。 「……」 ねぇ、私言いたいことたくさんあったんだ。今更気付いた気持ちも、認めたくなかった気持ちも、仲直りしたいという気持ちも、私が留守番していた時のいろんな出来事も、全部全部貴方に伝えたかったんだ。 なのに、なぁ。こんなこと、ないよ。最後に見た貴方の顔が怒った顔だなんて。 Repentance どんなに嘆いても、どんなに願っても、どんなに涙しても、どんなに後悔しても、もう彼には何も伝えられない。 こんなやつれた私を見たら貴方はきっと馬鹿だと笑うのだろうね。 だけどそんな貴方も、本当は、本当はね。好きだったよ。 (20120301) |