真っ赤に全てを燃やし尽くすように、モノクロの景色に映えた。長い長い髪、美しき炎の色。目を逸らすのが勿体ないほどに魅せられて、ゆらゆらふわりと揺れて。一度魅せられたら最後、呑み込まれてしまう。深く、深く堕ちていく。 「そこまで分かっててどうして近づくのかねぇハニー?」 「…さあ?」 月明かりに照らされる朱の髪は艶やかに、それでいて凛と派手な色を主張していた。ゆるく巻かれたその朱に手を伸ばすと同時にギシリ、と小さく鳴るスプリング音。私の上にいる彼は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。 「そんなの理由はただ一つだろ」 「何よ?」 「なまえは俺さまのこと愛してんだろ?」 愛、している?その言葉に少しだけ目を見開くと、髪をかきあげられ額にキスをされた。 ゾッとする、私が貴方を愛している?冗談も休み休み言った方がいいわ。にっこりと貼り付けた笑みを見せれば、彼は納得がいかないのか眉間に皺を寄せた。 「何だよその笑い方」 「何って貴方だけに見せる笑い方よ」 「…胸糞悪い」 「そ?それは御気の毒に」 ギシリ、今度は大きくベッドが鳴る。柔らかな朱の髪が私の首筋をなぞる。ぎらつく青の瞳にはまるで余裕がない。 何、貴方は私に愛していると言って欲しかった?私は貴方を必要としていると行動で示して欲しかった?でも残念ね、私は貴方のことを愛していないし必要ともしていない。(ま、振りだけならしてあげるけど) 柔らかな朱にもう一度手を伸ばし、そこに見える彼の首に腕を回す。太股を撫でる彼の大きな手はひどく熱を持っていたような気がした。 「ゼロス」 「…なんだよ」 「今日で終わりにしましょう」 首筋に舌を這わせる彼の顔こそ見えなかったけれど、一瞬ぴしりと固まったことで酷く動揺したのが手に取るように分かった。 何を動揺する必要があるの、貴方には私のような人が数え切れないくらいいるでしょう?それとも私なんかに終わりを切り出されてお高いプライドが傷ついたのかしら? ゼロスは朱の髪を振り乱して、荒々しく唇を奪ってきた。窒息させて殺すつもりなんじゃないかと疑うくらいに長く、そして熱いキス。 そう、それがいけないの。貴方は私が離れようとすると引き留めるために自棄になる。その意味を私は解ってしまったから。 「っん…」 「おいおい冗談きついぜハニー?」 「っは、…!」 「…誰がお前みたいないい女手放すかよ」 最初はただ互いの欲を処理するためだけに。だけど会う回数を重ねる度に私を抱く彼の手に一種の想いを悟った。 最初に約束しろと言ったのは誰?紛れもない貴方でしょう?どんなことがあっても恋愛感情は持つなと。私たちの間にあるのは肉体的関係だけであり、それ以外の邪魔な感情は一切無くせと。 貴方は約束を忘れたのかしら?それとも忘れたフリ?堕ちたのは私じゃない、貴方だった。 「残念ながらその願いは聞けないわ」 「なまえ、」 「…可哀相な神子サマ」 まるで絶望したように色を失くした瞳に苦笑すると、触れるだけのキスをする。するりと彼の首から腕を解けば、行かせないというようにぎゅっと壊れるくらい強く抱き締められた。 往生際の悪い人ね、言ったでしょう?貴方のその望みは聞けない。貴方が私を愛してしまった時から。 vermilion いつまで経っても離してくれそうにない彼に見兼ねた私は、「明日もまた来るから」と彼に今まで一度も見せたことのない優しい笑みを見せて嘘を吐いた。それに彼は安心したのか、抱き締められていた力が緩くなるのを感じる。 「…愛してんだよなまえ」小さく呟かれた彼の言葉、聞こえなかったフリをしてもう一度彼の首に腕を回す。そして彼にだけしか見せない貼り付けた笑みをうっすらと浮かべた。 朝にはこのシルクに包まれたベッドの上には自分だけしかいないことを、まだ朱の髪は知らない。 (だって約束だったでしょう?) (貴方の愛は私にとって煩わしいものでしかなかったの) (20120118) |