引き寄せられるように手を重ね合わせる。そこから感じ取れる鼓動はとても心地よく、まるで精神安定剤のようで離したくないと惜しんだ。ゆっくりと顔を上げれば赤の瞳と視線が交わり、そっと瞳を伏せると唇が重なり合う。薄く開いた唇、絡み合う舌、酸素を根こそぎもっていかれるようなその口づけに、私は一体何度窒息しそうになったのだろう。立っていられなくなるギリギリの所で唇を離され、銀の糸が厭らしく二人を繋げば私は熱い吐息を吐き出しては吸う。近距離にある彼の赤い瞳に映るのは、高潔な騎士の私ではなくただの女に成り下がった私の姿。嗚呼なんて滑稽で愚かなの。でも、それでも、それでも。為されるがまま私はベッドに沈んでゆく。


なめらかな肌触りのシーツに散らばる私の髪。首筋に這う彼の熱い舌に思わず艶やかな声をあげて逃げようとすれば、絡め取られる指。一本、また一本と私の指の間を埋める彼の指が温かくて思わず鼻の奥がツンとした。ずっとこうしていられるのなら、私は世界で一番の幸せ者だと思うの。叶わないそれに心の中で大いに嘲笑すれば、また鼻の奥がツンとして目頭が熱くなった。


自分が愛して止まない人と身体を重ねられる、それだけでも本当はすごく贅沢だ。なのに私は酷く我儘な女で、身体だけではなく彼の心までも欲した。彼と私のこの関係の先に待つものがドス黒く闇に包まれていると知っていても、それでも私は耐え切れず手を伸ばす。まるで雲を掴んでいるかのようでそれは私に虚無感だけを残してゆくのに。



「ガイ、アス」

「もう、私たち、これ以上は、」



だからと言ってこの辛く苦しい想いから逃れようとすれば、貴方は私を滅茶苦茶に抱いた。別れの言葉なんて最後の最後まで言わせてくれたためしがなかった、野獣のようにギラついた赤の瞳から逃れる術なんて私は持ち合わせていなかった。本気で愛してくれないのに離れてゆくことを許さないなんて、私のこの行き場のない気持ちは一体どうしてくれるっていうの?ああまた目頭が熱くなる。



「俺にはお前が必要だ」

「誰が…離すものか」



愛してるとは言ってくれない、それでも愛してると相応の言葉をくれる貴方が大嫌いだ。でも、そんな言葉にしっかりと縛りつけられる私自身がもっと嫌いだ。



「貴方って、本当、卑怯よ」



堪え切れず溢れだした想いは一筋の涙となって頬を伝う。それに唇を寄せる貴方はもうとっくに私の気持ちに気付いているはずなのに。「お前を繋ぎとめることが出来るのなら、それでも構わない」と絡み合わせた指の力を強くした貴方。本当に卑怯よ、そんなことされたらこの涙を一体どうやって止めてみせろというの。


悔しくて、でもそれ以上に愛おしくて、絡み合う彼の手にグッと爪を立てた。



卑怯者(20111019)
-------------------------------
1019〜11/23 拍手









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -