「あ〜もうやだぁ〜」

「なまえ、飲み過ぎなんじゃない?」

「そんなことはないわプレザぁ、ほらもっともっとぉ」



プレザは呆れたように息をついた。原因はもちろん、隣で何が面白いのかひたすらゲラゲラと笑うなまえだ。
こうなってしまっては手のつけようがないわ。プレザは肩を竦め、半ば諦めたかのようにグラスに艶やかな唇をつけた。そしてどうしてこうなってしまったのかと思考を巡らせる。

事の始まりは、この前の戦闘でガイアスに怒られたとなまえがしょげたように話始めたことだ。それを聞いた時、プレザは心底驚いた。何故なら彼女の機動力はずば抜けており、いつも先陣を切ってこちらの軍を有利な立場へと導いてくれる。この前の戦闘についても彼女の活躍はすぐに耳に入ってきたくらいだ。

なのに何故なまえは怒られたのか。その理由を聞いたプレザが、思わずニヤリとしてしまったのはついさっきのこと。



「全く、鈍感なのも考えものね」



誰がぁ〜?と、最早呂律も回っていないなまえのグラスをひょいと奪い、プレザはもちろん貴女よと溜め息混じりに呟いた。

当然なまえは、奪われたグラスを取り返そうと躍起になり、真っ赤な顔をさせたままプレザに詰め寄る。潤んだ瞳に誘うようなピンクの唇、酒を飲み過ぎて暑いのか若干はだけた胸元。いつもとは全くもって違うなまえの雰囲気があまりにも艶やかで、女のプレザでさえも思わずドキリとした。



「なまえ!もうこれ以上はやめなさい」

「やだぁー!もっと飲むんらからぁ!今日は陛下を忘れたいの!」

「なまえ。ここにいたか」



ピタリ。まるで我儘をいう子供のようにあんなに叫んでは暴れていたなまえが、嘘のように固まった。その原因が何なのか聞くだけ愚問だろう。プレザはこの場に似つかわしく無い存在に、少々驚きながらも敬意をはらってお辞儀をした。



「お迎えでしょうか、陛下」

「ああ。なまえに酒を飲ませると必ず厄介事が起きるからな」



未だにピクリとも動かないまま、潤んだ瞳でガイアスを見つめ続けるなまえ。なんで、どうして、ここに、陛下?明らかに動揺している彼女の腕を掴み、ガイアスは店を出るぞと言わんばかりになまえに視線を寄こす。



「や、陛下、わたしまだお酒飲むの!」

「これ以上飲ませたら手に負えん。帰るぞ」

「へいかはわたしのこと、足でまといと思ってるくせに!ほっといてくらさい!」



キッとガイアスを睨み上げるなまえ。睨んでいるといっても潤んでいるその瞳に赤く染まった頬。そんな顔してるとどう考えても誘っているようにしか見えないわよ。プレザは苦笑しながら、眉を潜めたガイアスを見て口を開いた。



「陛下は鈍感ななまえに対してあと少しばかり言葉が足りなかったんだと思いますよ」



そうプレザに言われ、ガイアスは考えるような顔をしてみせた。これで陛下がなまえを怒ってみせたのは足でまといだからという理由じゃなく、ただ単純に何処にでも突っ込んで行くなまえを心配していたからと彼女が理解できればいいのだけれど。今にも泣き出してしまいそうななまえにプレザは、まるで保護者のような気持ちを抱きながら息を潜めてその場を見守る。

やがてどうすればいいのか、自分なりの答えを導き出したガイアスは何の躊躇いもなく口を開く。しかしどうやら彼は、プレザの言葉の意味をあまりにも素直に受け入れてしまったらしい。次の瞬間、なまえが卒倒し、プレザが驚きに声を張り上げた。





「陛下!それは直球すぎます!」



「なまえを愛するが故に心配したつもりだったんだが」なんて、なまえが倒れないはずがないわ!プレザは不思議そうに眉を寄せるガイアスと、倒れているなまえを交互に見た。鈍感と天然。この二人が本格的にくっつけば苦労するのは誰かなんて目に見えている。そしてそんな日はすぐにやって来るのだろう。

ああ、今ならウィンガルの苦労が分かる気がするわ。プレザは見え透いた未来に思わず頭を抱えた。


(20111101)









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