どうか、ねぇ、気付いてよ。


そう言おうと決意するも、彼に会う度に喉につかえて声として出すことは一度だって叶わない。それはこの関係にもつれ込んだ時に淡々と言われた彼の言葉の所為なのか。ただ自分が臆病なだけなのか。いや、きっとどちらも当て嵌まるのだろう。なんて情けない女だ。


この関係に心は一切なくせ。初めて体を重ねた時に言われたその言葉に深い意味はない。ただ持て余す性欲をお互い吐き出すためだけの情事、言わば互いが性欲処理の道具となる。実に単純な話で理性を全て取っ払い、ただ己の本能に従い相手を求めればいい。そう、単純な話。単純な話であったはずなのに。



「っ…ん!」

「…なまえ」

「や…ぁ…っ」



ギシギシ、と揺れる度に鳴き声をあげるベッドの上で私たちはいつも通りに体を重ね合わせる。そこにもちろん、心などない。

嗚呼、私はそれを分かってこの関係を受け入れたはずなのに。

私の上に跨る漆黒の彼の髪が揺れるのをぼんやりと見つめながら、快楽に沈んでいく。どんなに身体が満たされても潤わない心は既に干乾びきっている。それでも伝えられない、伝えきれない。私のこの想い、もし貴方が僅かでも感じとってしまったのならそこで終わりなんでしょう?



「なまえ」

「ん、っ…」

「…なまえ」



何度も私の名前を呼びながら、彼は私の髪を撫でて首筋に口づけを落としていく。その行為が一番辛いことを彼は知っているのだろうか。まるで本当に愛されているみたいで、そう、恋人同士が愛を確かめ合っているみたいで、その度に私は今にも泣き出してしまいそうな顔を見せまいと黒をぎゅっと抱きしめる。



「ウィン、ガル」

「なまえ」



彼に近づけるのならば、彼と関われるのであればずっとこのままの関係でもいいと思っていた。なのに貴方と体を重ねる度に浮き彫りになるのは私の欲ばかり。愛されたい、愛されたいと私の身体が叫ぶ。そう願った時点でこの関係が崩れ落ちるのは目に見えていたけれど。それでもどうか神様、もしいるのならば。

震える唇で息を吸った。



「…ねぇ、お願い」


「気付いて、」





涙ながらに消えそうな声で呟いた私の声はどうやら彼に届いたらしい。一度視線が交わったかと思えば、彼は目を伏せゆっくりと私を抱き締めた。とくん、とくんと彼の心臓の音が心地いい。このまま時が止まるのならと切実に思った私の耳に届いた微かな言葉、それはあまりにも容易に私の涙腺を奪い去っていった。




(あの時言った最初の言葉、撤回を望んでもいいのか)


嗚呼、やっと、気付いてくれた


(20111007)









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