ガシャン、と私の手から銀の刃がこぼれ落ちるのと視界が反転するのはほぼ同時の出来事だった。


「…あーあ、捕まっちゃったか」


首元に突き付けられた鋭利な銀。容赦なく押し倒し、私の上にいるのは黒い男。その細い腕のどこにそんな力があるのだろうかとぼんやりと思った。

黒は表情を一切変えず淡々と呟く。


「どうしてお前が」


表情こそは一切変わってないけれど、言葉には僅かな戸惑いが含まれていた。私は静かに目を伏せる。ウィンガル、貴方もまだまだだね。


「答えろなまえ」

「…せっかちな男は嫌われるわよ」

「そんなことは今はどうでもいい」

「私が言わなくても思慮深い貴方ならもう分かっているでしょう?」


私が陛下の寝室に凶器を片手に向かっていたことの意味を。

とうとう表情さえも崩れた彼は、眉間に皺を寄せて俯いた。そして小さく首を振ると、私の首元に突き付けていた銀を宙へとかざす。その時顔をあげた彼の顔が、あまりにも、それはあまりにも。


「出来れば夢であって欲しいと、これほど望んだことはない」


私はそれに何も答えず笑った。なのに頬は冷たくて視界は歪んで。嗚呼、私だって、本当は。



「バイバイ、ウィンガル」



私もまだまだだったね。最後の最後で想いを瞳からこぼしてしまうなんて。




(20111001)









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