おかしい。一体何なのこの光景は。



「陛下。陛下?…陛下ーへーいーかー」

「…何だ。そんなに呼ばずとも聞こえている」

「じゃあ私を離して下さい」

「……」

「さっきは聞こえてるって言ったでしょう!?都合が悪いものは無視ですか!」



嗚呼、陛下が忙しさのあまりとうとうお壊れになった。

ウィンガルさんに陛下に渡すよう頼まれた書類を持ってきただけなのに。ささっと書類を渡してそれでは失礼しますで終わってたはずなのに。はいそこで今回の議題。何故私は陛下の逞しい腕にがっちりホールドされてるのでしょうか?



「陛下…お願いですからお離し下さい。私の心臓がそろそろ持ちそうにありません」

「……あと30分」

「あと30分!?私確実に昇天しますから!!」



プレザちゃんがこの光景を見たらさぞかし面白がるだろうなあ…ウィンガルさんが見たら…うわっ、寒気が…
そういえばウィンガルさんはこの後陛下と作戦会議をするとか言ってたはず。や、やばいわ…こんな所見られでもしたら私明日はカン・バルクの雪景色拝めない…

とりあえずこの大きな人をどうにか剥そうと力いっぱい胸板を押してみるけれどいかんせん、びくともしない。いえ、それは分かり切ってたことなんだけど。げんなりとした私は勘弁して下さいと言うように溜め息をついた。



「陛下…どうしたら離してくれます?」

「離さん」

「…さっきはあと30分って言ってたのに」

「気が変わった」

「本当腹立ちますねこの王様」



私は命が懸かっているというのにこの王様は何を呑気な。耳たぶにでも噛み付いて無理矢理離してもらおうかとも思ったけれど、ここ最近の陛下が忙しなくあちこちと動き回っていたことは記憶に新しい。……私も何だかんだ言って陛下に甘いのかな。はぁ、と二回目の溜め息をついて私は観念したようにゆるゆると陛下の背中に手を回した。



「5分だけですから。5分過ぎても離さなかったら金輪際触れることは許しませんよ」

「……よかろう」


なんて偉そうな。って実際偉いんだけど。でもいつも険しい顔をしている陛下がこうして思いっきり甘えてきてくれるなんてそうそうないことだと、私は陛下の見えない所で嬉しくて思わず顔を緩ませてしまった。




そうそう今回の議題の結論はと言うと、




コンコン、とノックの音が聞こえ私が動揺する暇もないくらい、すぐさまガチャリと開く扉の音。こ、ここ、こんなこと出来るのは最早一人しか存在しない…「なまえ」そう呟かれた言葉が恐ろしく重たくまるで鬼のようで、私は振り向くことはおろか言い訳の言葉すら口にできなかった。


(陛下はお疲れのあまり人肌恋しくて私に抱きついたけれど、そんな私は真っ黒な鬼の極刑が待っているという何とも酷い結論)









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