一国の王もこの時はただの一人の人間なんだと、そう改めて思う。



低血圧な私が珍しく寝起きのいい、そんな朝だった。窓の方を見ればいつもと変わらない美しい銀世界。隣を見れば小さな寝息をたてて眠っている黒髪の彼。

いつもなら私が起きた時は、彼は必ずと言っていいほど先に起きているはずなのに。



(まぁ、昨日はいつもより一段と遅かったものね…)



彼の柔らかい黒髪にそっと手を伸ばす。立場上、常に気を張っていなければならない彼はいつもならきっと私が髪を触った時点で目を覚ますはず。しかし起きるどころかぴくりとも反応しない。随分とお疲れらしい。



(…でも、嬉しいかも)



黒髪をくるくると自分の指に巻き付けながら、思わず顔を緩ませる。私は彼にとって気を許せる存在でありたい。欲を言えば彼の疲れを少しでも癒せる存在でありたいから。彼が本当に気持ち良さそうに寝ているのが堪らなく嬉しかったり。




「寝顔がかわいいなんて嫉妬するぞー…」




ふにゃりと笑い、彼が寝ていることをいいことにギュッと抱き着いた。いつもは恥ずかしくて絶対に自分からやらないことだけど、相手が寝ているならまた話は違う。起きる前に離れればいいことだし。

しかしその緩い判断は、次の瞬間私の背中にしっかりと回された手によってやがて大きな後悔へと変わった。





ウェイクアップ、マイダーリン




「朝から大胆なことをするものだな、なまえ」となんだかご機嫌な王様とは裏腹に、してやられたと頭を抱える私。「…いつから起きてたの」「なまえが俺の髪に触れた時」「忘れて。今起きた出来事全部忘れて」あまりの恥ずかしさに思わずガイアスの首筋に顔を埋め、私は真っ赤に染まった顔を隠す。


だけど「心配しなくても忘れはせんぞ」と比較的楽しそうなガイアスはきっと、悪戯が成功した時の少年のような表情をしているのでしょう。いつだってガイアスには敵わない、到底敵いそうにもない。小さく息をついて少し顔を上げれば、至近距離で赤い瞳と視線がかち合った。かっこよすぎるのよばーか。

そしてガイアスはしっかりと私を抱き締めたまま、額に触れるだけのキスを落としてくれた。どうやらまだ眠たいらしくその赤い瞳を伏せる彼。ためしにちょっと胸板を押し返したけれどびくともしない辺り、私も道連れにする気ね。


だけどその温かくて優しい温もりに段々と、もういいやと思わされてしまった私も同じく眠りに誘われるように瞳を伏せる。ガイアスの寝顔をまじまじと見れただけでもいいとしましょう。でももう二度と、二度とあんな恥ずかしい真似しない!




(たまには狸寝入りしてみるものだな)
(…後でウィンガルに言いつけてやるんだから)










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