大貝獣物語



タクマたちとの冒険のなかで。ボクは、心のなかが洗われるようなきれいな景色を、この目で何度か見てきた。もちろん世界が真っ暗闇に覆われるところもたくさん見てきたけれど、それでも記憶のなかに鮮明に残る景色までは決して汚れてなどいなかった。

そして、この目で見てきた景色のなかでも、ボクがいちばんきれいだなっておもったのが『花』だ。 赤やキイロや白、いろんな色をもつそれは、空のてっぺんへと伸びていくみたいにしてまっすぐと咲いてた。戦いのせいで散っていってしまった花もあるけど、それも月日が経てばまた、ふたたびきれいな色を咲かせた。

花は脆くて、けれどつよくて。そして、とてもきれいなものだと、ボクはそうおもった。そうしてその花に似ているひとをボクは知っている。脆くて、けれどつよいひと。そして、とてもきれいでまっすぐと生きているひとだった。ソニアとはまた違ったふうに、守りたいっておもわせるようなひとなんだ。

たぶん、そのひとは、花そのものだった。そのひとが笑えば、ボクは花を見たときみたいに心がやわらぐし、なによりもあたたかな気持ちになる。それに彼女は動物や自然に愛されていて、風に頬を撫でられればきもちよさそうにほほ笑むんだ。まるで、そよかぜにやさしく揺られる花みたいに。

そして、花は。みじかいじかんの中でだんだんと枯れてしまうのだっていうことも、ボクは旅のあいだで知った。それを教えてくれたのもまた、花のようなひとだった。けれど彼女は悲しいことじゃないんだって笑った。花が綻ぶみたいなほほ笑みで、ボクにやさしく云い聞かせてくれた。

―― 枯れても萎れても。花はまた、おなじ季節に咲くんだよ。

だから彼女は悲しいことじゃないんだって笑った。つぎの季節にまた咲く準備をするために眠りにつくんだって、そう云って笑った。それを知って、ボクはすごく嬉しくなったっけ。

けれどボクは、ゆいいつ枯れない花を知ってるよ。それはいつだってボクのそばにいてくれて、どんなときもボクにやさしい気持ちをくれる。泣いたりおこったり笑ったり、いろんな色の顔をみせる。よわさという脆さ、だけど守るために必要なつよさももっている。それは決して力だけのものじゃなくて、包みこむようなやさしいつよさ。とてもきれいでまっすぐに凛と生きている花。そして、みじかいじかんのなかじゃ枯れない花なんだ。

もしもこんなことを云ったら、驚きに顔を赤らめて照れるのかな。それとも、ありがとうって云ってとびきりの笑顔を浮かべるのかな。どちらにしても見てみたい顔には変わりなくて、ずっと胸に秘めていたことをおもわず云ってしまいたくなる。
だから、ねえ。聞いて。


「ボクのいちばんの花は、ハナミだよ」


ボクがいちばん大好きな。ボクの、いちばんの花なんだ。


(枯れない花)

20091117
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