※数年後、同棲設定

初めて会った時から、まあ鈍くさい部類の人間なんだろうと思っていた。そして自分はそうした部類の人間とは生きるペースの違う人間だとも思っていたから、出会ってから数年、今も俺の隣りに竜崎がいるなんて、あの頃の俺は一ミリも想像していなかっただろう。
竜崎は意外にも家庭的な面においてはあまり鈍くさくなかった。それでも偶に洗濯物の洗剤と柔軟剤を間違えたりするくらいなら可愛いものだ。
裁縫も偶に端から見ていてそこに待ち針を刺すのは如何なものかとか裁ち鋏の使い方がちょっと一緒に自分の指も裁断する角度で入ったりしてるけど、これらもまあ許容範囲内だ。

「朝ご飯出来たよ、」

こう告げる竜崎の料理は結構美味い。とゆうか俺の好みに合っている。和食好きな俺の為に毎日朝から頑張っているのだろう。朝飯が出来るぎりぎりまで寝ている俺にはよくわからないけれど。少し話が逸れるけど、俺は竜崎が調理している姿を見たことが殆どない。朝は寝ていて、昼は弁当。夜は帰宅する時にはもうほぼ夕飯が出来上がっている。別に調理している所なんて居合わせてもそれを手伝うつもりなんて微塵もないのだから構わないけれど。偶に労いの言葉とか感謝の言葉とか掛けようにも、何に対する言葉なのかが説明出来ない気がして少し俺の内側に引っかかっている。

竜崎の料理は俺の好みに合っている。けれど初めの内はどうしても竜崎の作る味噌汁だけは合わなかった。俺の感性だけを基準に言わせて貰えばしょっぱかった。そしてその旨を、何故か俺は竜崎に伝えなかった。だから竜崎の作る味噌汁は今日まで変わらずにしょっぱい。それなのに。竜崎の作る味噌汁が美味いと感じる様になってきてしまった俺は大分末期なのかもしれない。

「…竜崎、」
「リョーマ君?」
「これからも俺に味噌汁作ってね」
「…?うん!」

遠まわしな言葉はどうにも遠慮がちな思考回路の竜崎にはいまいち伝わりにくい。朝食を終えたら、もう少しストレートな言葉で告げてみようか。そろそろ竜崎も越前になっても良いんじゃない?なんてね。





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