弱さを知っているから、いつだって強くありたいと願ってきた。あの頃は只の高望みでしかなかったけれど、自分の足で立って走れるようになった今ならばほんの少しくらい、手を伸ばしてみても構わないだろうか。
隣りに立つことすら叶わなかった彼女と、只並んで座っているこの状況が何だか不思議で、だけど驚くくらい穏やかだった。

「茂人は一緒にやらないのか」

疑問ではなく、確認のような言葉。
昔から玲名は他人に疑問符を添えて事を尋ねることは少なかったように思う。
物事の最終判断を下すのはいつだって自分自身。だからその判断基準だって自分の目で見て耳で聞いたものでなくてはならない。
そんな玲名の姿は、幼い頃の弱々しい自分にはひたすら強く、また自由に映っていたのだ。
晴矢の様に、力強く前に突き進んでいくのとはまた違った類の、強さ。
こうしてサッカーを離れて、他のみんながフィールドを駆け回っている姿を眺めている今も、玲名が纏う空気は変わらない。

「うん、今は良いよ」
「まあ、今入れてくれと頼んでも気付いて貰えないだろうな」
「そうだね、大分白熱してるし」

向け合っていた視線を、もう一度サッカーに熱中している仲間たちに移す。何処にでもありそうな光景なのに、こんなにも眩しく見えるのは何故だろう。
自然と目を細めてしまう俺に、玲名は一言爺臭い、と笑った。
そんなことないよと否定することも出来ずに考える。
いつか、本当の爺さんになった時のこと。
当たり前になったこの光景がずっとずっと遠ざかって行った時、自分は一体どこにいて一体何をしているんだろう。

「なあ玲名、玲名はお婆ちゃんになったら何してる?」
「……は、」
「今が楽しすぎるからかな、将来のことを考えると寂しくなる時があるんだ」
「馬鹿馬鹿しい」
「そうかな」

玲名なら、きっと俺の弱音をこうして切って捨てるだろうな、とは思っていた。
座りながら腕組みをして呆れたようにこちらを睨んでくる玲名は、同年代よりはやっぱり大人っぽく見える。
だけどこうして俺の隣りに腰掛けて、サッカーに興じて夢中になっている間はやっぱり俺達と同じ子供なんだと思う。

「明日の事すら分からないんだ。何十年も先の事なんてわからない」
「……うん、」
「だがお前が望んでくれるなら、私はずっとお前と一緒にいるがな」
「え、」
「行くぞ茂人、丁度前半終了だ」

答えを待たず立ち上がり歩き出す玲名につられて慌てて後を追う。
思えば人の背中を見詰めてばかりの生き方だった。
並んで歩くには、まだまだ自分は弱過ぎる。
俺と玲名を急かす仲間の声に応える玲名はきっと強い。
憧れから始まる二人の行方を俺は知らない。
だけど俺が望むのならば。叶う可能性のある未来なのだと、たった今玲名が教えてくれた。
だからいつか、導かれるのではなく導き合える二人を求める。
当たり前となった幸せな風景を、これからも隣りで眺めていられるように、やっぱり俺は玲名の強さに憧れ生きて行くのだろう。






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