着せるなら、きっとお人形みたいに沢山のフリルやレースがあしらわれた、昔外国の貴族とかが着ていた服が似合う。
リカの傍にやって来るギュエールが放つ甘い香りに少しの眠気を覚えながら、ぼんやりと考える。
可愛らしさが鼻につくような、残念なタイプの女子が稀にいる。そしてそんな子とは対局の位置にいてギュエールはいつだってリカに構い倒している。今日は何をしたがる事やら。
半ば諦めを覚えたリカは同じ女の子と云う理由だけでギュエールには多分に甘い。
二人ぼっちのこの部屋に、様子見と称して度々現れるセインが、実は密かにギュエールに溜め息を吐き内心リカに哀憫の目を向けている事に、リカも薄々気付いている。
嫌いになんてなれなくて、寧ろ好ましく思っている相手の思考を、ここまで測り倦ねる戸惑いがリカにはある。
だけど、何をせずとも楽しそうに笑うギュエールを見ていると、何かを追求しようなんて考えは直ぐに霧散してしまう。

「ねえリカ、これ素敵ね!」
「……結婚式?」

リカが暇潰しにと持ってきた雑誌の中の一ページに、ギュエールは興味津々らしく説明を求める。発売された時期の影響か数ページに渡り特集されているブライダル記事を眺めながらリカは簡潔にギュエールに人間の結婚式について教えてやる。正直、リカは花嫁と云う言葉はつい先日の事件で暫く聞きたくないワードでもあった。散ったばかりの恋にも、あまり良い響きではない。

「このドレス素敵…」
「ギュエールにはドレス似合いそうやなぁ」

やはり天空の使徒と云うより女の子。綺麗で可愛いウエディングドレスには目を奪われるのだろう。リカが想像したウエディングドレスを纏ったギュエールが幸せそうに笑う。
だが目の前にいるギュエールは不思議そうに首を傾げて手を伸ばしリカに触れる。

「ウエディングドレスはリカが着るのよ?」

私はこっちのタキシード着るから。リカの頬に嬉々として触れながら、ギュエールは当たり前の様に告げる。
天使の告知とは神の意思。逃げ出すことなど出来はしない。
普段通りのスキンシップ。漂う空気は、少し荘厳。ギュエールの瞳は、いたって真剣。
理解が追い付かずに未だ瞳を瞬かせているリカが可愛くて堪らないのか、ギュエールは思い切りリカに抱き付く。
勢いに押され、床に倒れ込む最中、リカは今度はぼんやりとタキシード姿のギュエールを想像してみる。
可愛らしい彼女だけれど、案外それも男装の麗人として映えるかもしれない。






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