颯爽と駆け抜ける背中を見ながら、一度だけで良いから振り向いて欲しいと思っている。休憩時間のドリンクや差し入れのおにぎりだって、出来れば私が作った物を選んで欲しいし、さらに欲を言うならば、それを作ったのが私だって気付いて一言でも褒めてくれたなら、私はきっと世界の中でも有数の幸せ者になれると思うの。
毎日毎日、風丸さんの背中だったり、横顔だったり、時間さえあれば彼を見つめている私を、木野先輩は「恋してる顔」と微笑みながら表現した。
確かに、私は風丸さんに恋をしていて、風丸さんもそんな私の気持ちを受け止めてくれた。その時の私の舞い上がりっぷりはそれはもう凄かったろう。
けれど、気持ちが通じ合ってから、私の風丸さんに対する「欲しい」が片思いだった頃より圧倒的に膨らんだ。
以前なら少し目が合ったり、話せるだけで胸がいっぱいになったのに。

『だって私は彼女なんだもの』

この言葉が独占欲に繋がって、私はいつだって風丸さんのこと考えてるんだから、風丸さんもいつだって私のこと考えててください。なんて思ってしまう自分はひょっとしなくてもわがままで面倒くさい女なんでしょうか。

「そんなことないと思うけどなあ」

気遣いなんていりませんよ風丸さん。正直に言ってください。そうすれば私も自分を自制出来るよう頑張りますから。

「俺だって、休憩の時はタオルとかは一番に渡して欲しいし、練習後の片付けなんかも音無がボールとか運んでる時は俺のこと頼ってくれないかな、って考えてるよ」

俺って案外面倒くさい男なのかもな、私の隣に座る風丸さんは優しく笑っていて。

「俺は音無が思ってるよりずっと音無のこと考えてるよ」

こんなこと言われたら、私はもう喜ぶしかない。風丸さんは本当に私を喜ばす天才で、いつだってたった一言で私を幸せにしてくれる魔法使いで王子様だ。

「風丸さん、ぎゅっとして下さい」

お安いご用、と私を抱きしめる風丸さんはとても優しい。この優しい人は、きっと私の最大のわがままだって叶えてくれるのだろう。わがままなんかじゃないよって笑いながら。


(私を、貴方のお姫様にして下さい)


叶えてくれますよね、風丸さん?






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