※色々注意!マーク→リカ→←一之瀬

叶わない恋だから引き裂いてあげただなんて、烏滸がましいにも程がある。だけどこうする事を望んでいた自分の存在を確かに認めていたマークはただ自分の横で泣きじゃくっているリカを眺めながら、自分の中で満たされていく何かを感じていた。酷く泣きじゃくって呼吸すらままならないリカの背をさすろうと伸ばした手はリカに叩き落とされる。行き場を無くした手は大人しくベッドのシーツの上へ着地。
ぐちゃぐちゃのシーツの上に残る痕跡はリカの恋が第三者の手によってずたずたにされた証で、マークがずっと焦がれたモノを手に入れた証でもあった。たとえそれが、一瞬でかつ合意のない無理矢理に行われた行為の結果であったとしても、だ。

「リカ」

口にした名前に、答える声も動作もない。それが一貫してリカがマークに与えた仕打ちであり反抗であったし、何よりマークの気持ちと行為に対する拒否の返答だった。
それでもマークの顔は満たされた無邪気な子供の様に穏やかだった。リカの唇が、声が、「ダーリン」等と甘ったるい色にまみれた言葉を紡ぎ出すくらいならば、沈黙の方がよっぽど愛しい。自分に背を向け、リカの想い人の傍へ駆け出してしまうくらいならばずっと自分の隣でうずくまっていてくれた方が嬉しい。

「好きだ」

泣きながらしゃくりあげるリカ以外に音を発する存在のない部屋で呟いた告白は存外大きく響いた。しかしリカはうずくまったまま、泣きながら嫌々と首を振るばかりだ。伝わらない届かない告白を、一体何度繰り返したか。マークはもう数える事を止めてしまった。それでも、リカがカズヤに告げてきた愛の言葉に比べたら全然足りて無いのだろう。
だから自分の気持ちはリカに届いてくれないのか。それともリカがカズヤに伝えた回数以上にリカに愛を囁けば、リカの気持ちはカズヤによっては報われないのだと気付いてくれるだろうか。
そんな自分本意な思考回路で事を考える途中、ところで、なんで自分は突然リカにこんなコトしようとしたんだっけ、と思う。リカの恋が不毛な事も、自分の恋が不毛な事ももうずっと前から承知の上で自分はリカを好きでいたのではなかったっけか。

(これは、だって、カズヤが―)

そうだ、あれは、自分の恋を、引き延ばすことも引き裂くことも出来るポジションに、いるカズヤが。
一之瀬はマークのリカへの恋心を知らない。教えようとしなかったのは、マークの一之瀬へのちょっとした対抗心だった。その、一之瀬が。今までリカのあからさまな好意に目を背けていた一之瀬が。

「俺、リカの事結構好きだよ」

チームメイトの冷やかしに、自然に答えたこの言葉が、確かにマークの中で何かを壊した。結構なんて抑えてみたって、一之瀬の表情を見ていたマークにはその言葉に籠もる意味を残酷な程明確に突きつけていて。今更なんでなんて尋ねる事も出来ずにその場を後にした。正直、その後どんな言葉や理由でリカを呼び出したかなんてもう覚えていなかった。だけど、なるほど自分はこんなにも酷い人間だったのか、と一人納得しながらマークはもう一度リカに手を伸ばし触れる。恐怖と嫌悪でもがく身体を強引に抱き締めながら、リカの肩に歯を立てる。一之瀬ですら知り得ないその味に、マークはただ酔う振りをした。自分の恋心に入った罅には、絶えず目を伏せながら。流れる涙は、きっと気のせいだ。






- ナノ -