雨と風が激しくなり、窓ガラスも先程からがたがたと音を立てている。台風が来る、ニュースではここ数日その話題でもちきりだった。つまり、どのチャンネルを回しても外を見ればわかる気象情報ばかりで、つまらない。リカの家に偶然遊びに来ていたディランの退屈への忍耐も、あと数分で爆発してしまうだろう。リカは先ほどからフローリングの上をごろごろと寝転がったまま回転しているディランを見やりながら、あの頭はモップみたいだなあ、と頓珍漢な事を考えている。台風でサッカーは勿論どこにも行けないから、と既に一通り家事はしてしまった。リビングの掃除もやった。しかし、もしディランの髪に残っていた埃とかが付いてしまったら嫌だ。だからリカはディランに大人しく座っているように、と促す。ディランは退屈だとぼやきながらもリカの言葉に従った。リカはまるで大きな子供だ、と思いながら、ディランの髪を手櫛で梳いてやる。その触り心地は滑らかで、床の埃を巻きこんだりはしていなかった。その事に、リカは小さく安堵の溜息を洩らしたのだが、ディランはこの溜息を退屈から出てくるものだと受け取った。

「ねえリカ、ミーすごく退屈だよ」
「ウチもごっつ退屈やわ」
「台風はいつになったらいなくなるの?」
「それはウチにはわからんなあ」

そう言いながら、リカはテレビ画面を指差す。そこには若い気象予報士が映っていて、しきりに荒波に注意しろだとか、そんな事を何度も繰り返している。

「あの人なら知ってるかもしれんけど」
「ふーん、日本のテレビは天気予報ばかりだ」
「それは今だけや」

ディランは恐らく、サッカーがしたいのだ。それはわかる。けれど、視線を今度は窓の外に寄越せども窓の表面には雨粒が殴りつけるかのように当たっているし、風も相変わらず強い。ボールをコントロールするどころか、目を開くことすら困難だろう。相手がディランでなければ、台風であろうと構わず外に出てみようと嗾けるのは自分であろう、とリカは思う。しかし何というか、ディランは危なっかしい。実際危険な事をしたりする筈ないと分かっていても目を離せない。ふと、自分が昼食の準備をしにキッチンに籠ってしまったら、退屈を持て余したディランはサッカーボールを持って外に出て行ってしまうのではないかしら。そう考える。もしそうなれば、自分はディランを探しに外に出なければならないし、きっとお互い濡れるから昼間からお風呂を沸かさないといけない。そうすれば昼ご飯の時間も遅くなってしまう。マイナス点ばかりだ。

「ディラン、一緒にお昼御飯作ろか」
「ミー、料理は苦手だよ?」
「ええやん、一緒に台所に立って料理するん、いや?」
「リカと一緒ならいいよ!」

意気揚々と立ちあがって、早く早くとキッチンへリカを急かすディランに、リカは現金やなあ、と腰を上げる。多分、ディランの料理が苦手だという言葉は嘘ではないだろう。間違っても包丁なんて持たせてやれない。お昼御飯はお好み焼きと決めているから、ディランには具材を混ぜるのを手伝ってもらおう。あと、お好み焼きをひっくり返すのが、ディランは好きそうだから、火傷しないように注意しながら、コツを教えてあげよう。
台風も偶になら悪くない。そう思いながらリカは急いでディランのいるキッチンへ向かった。






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